『キャメラを止めるな!』まさかの日本映画界の原作忠実問題を風刺!

キャメラを止めるな!(2022)

監督:ミシェル・アザナヴィシウス
出演:ロマン・デュリス、ベレニス・ベジョ、グレゴリー・ガドゥボワ、フィネガン・オールドフィールド、マチルダ・アンナ・イングリッド・ルッツ、どんぐり(竹原芳子)etc

評価:20点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

2018年に公開されると口コミが口コミを呼び、大ヒットし、国外でも賞賛された『カメラを止めるな!』。これがまさかのフランスでリメイク。そしてカンヌ国際映画祭のオープニングで上映された。ENBUゼミナールのワークショップ映画がここまで大躍進するとは正直驚きである。さて、私は監督名を聞いて不安を抱きました。

「ミシェル・アザナヴィシウス」


確かに、『アーティスト』でアカデミー賞作品賞を受賞した作品ではあるが、サイレント映画の美味しいところを繋げたパッチワーク映画にみえて良い作品とは言えなかった。ゴダールの半生を描いた『グッバイ・ゴダール!』に関しては、ゴダールのオシャレさを真似ただけの酷い映画であった。結局、名作の良いところを繋げているだけで、ミシェル・アザナヴィシウス監督の世界が見えてこないのだ。『キャメラを止めるな!』では俳優にタランティーノTシャツ着せており、フランスのタランティーノを意識しているのだろうけれど正直遥か下をいく監督だと思っている。それだけに『カメラを止めるな!』のリメイクは危険だと思った。あれは低予算のワークショップ映画だから成功したようなもので、ロマン・デュリスやベレニス・ベジョがいて配給にWILD BUNCH、CANAL+がついている状態でどのように傑作にするのだろうか?個人的にリメイクするならフィリップ・ラショーやカンタン・デュピューといった超絶技巧のコメディ監督がいただろうに何故ミシェル・アザナヴィシウス?疑問を抱えながら劇場に行ったのですが、これがやはりな出来栄えでした。

『キャメラを止めるな!』あらすじ

低予算ながらブームを巻き起こした2017年製作の日本映画「カメラを止めるな!」を、「アーティスト」でアカデミー賞を受賞したミシェル・アザナビシウスがメガホンをとり、フランスでリメイク。日本で大ヒットした映画「ONE CUT OF THE DEAD」がフランスでリメイクされることになり、30分間生放送のワンカット撮影を依頼された監督。監督志望だが空気の読めない彼の娘と、熱中すると現実とフィクションの区別がつかなくなってしまう妻も加わり、撮影現場は大混乱に陥っていく。全く話の噛み合わない日本人プロデューサーとのバトルも繰り広げられる中、ラストシーンまで完走するべく悪戦苦闘する彼らだったが……。「タイピスト!」のロマン・デュリスが主人公の映画監督、「ある過去の行方」のベレニス・ベジョが妻を演じる。さらにオリジナル版のプロデューサー役で強烈な印象を残した竹原芳子も出演。

映画.comより引用

まさかの日本映画界の原作忠実問題を風刺!

予想通り、本作は『カメラを止めるな!』の骨格を完全に再現したものであった。がらんとした空間の中で、ゾンビ映画を撮ろうとするも本当にゾンビが出てしまいてんやわんやする第一部。ゾンビ映画生放送の白羽の矢が立った男の苦悩を描く第二部。そして、第一部の裏側を描いた第三部。これを完全に踏襲している。上映時間が伸びて2時間ぐらいになっているのは、『カメラを止めるな!』における竹原芳子演じる企画持ち込み者の描写が追加されたせいだろう。上映時間が伸びている割には、ロマン・デュリスとフィネガン・オールドフィールド以外の登場人物が雑に処理されており、個々の登場人物が目の前で通り過ぎていく。

フィネガン・オールドフィールド演じる意識高い系俳優が、極限状態になりどうしようもない脚本を一生懸命演じ場を持たせようとするまでの心理的変化は描けていたが、下痢気味なマイク担当や、裏方の人々に対して心理的変化を掘り下げられたかと訊かれたら疑問が残る。

そもそも、冒頭のゾンビ映画パートがつまらない。せっかく平面に広い空間を使っているのだから、横移動奥行き移動の快感を魅せられたはずなのに、「低予算ゾンビ映画」に胡座をかき、雑なショットと間を繋いでいくのはただの傲慢としか言いようがない。

さて、本作は良くも悪くも日本映画を風刺しているような作品となっている。途中、竹原芳子が「原作に忠実にしてほしい。」と、役名まで日本版と合わせろと言ってくるのだ。これは、「映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形」でも言及されているアニメ映画が漫画の台詞をそのまま再現する問題のことを指摘しているように見える。別の作品としてRE-MAKEするとしてもオリジナルに忠実でなければ、ダメの烙印を押されてしまう日本映画特有の問題がまさかここで描かれているとは驚きであった。

しかし、視点は興味深いが、このように退屈な演出、繊細さに欠ける演出に汚染された中、その視点を提示したことで、創意工夫なきリメイクの言い訳にしか見えない。

結局、階段の死角を使った血飛沫演出の良さとエンドロールにて原作を『カメラを止めるな!』だけでなく、和田亮一の『GHOST IN THE BOX!』に言及している点の2箇所が良かった程度のクオリティでした。

やっぱり、フィリップ・ラショー版かカンタン・デュピュー版で観たかった。

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