永遠に続く嵐の年(2021)
The Year of the Everlasting Storm
監督:ジャファル・パナヒ、アンソニー・チェン、マリク・ヴィタル、ローラ・ポイトラス、ドミンガ・ソトマイヨール、デヴィッド・ロウリー、アピチャッポン・ウィーラセタクン
もくじ
評価:55点
・ジャファル・パナヒ:100点
・アンソニー・チェン:30点
・マリク・ヴィタル:40点
・ローラ・ポイトラス:0点
・ドミンガ・ソトマイヨール:60点
・デヴィッド・ロウリー:75点
・アピチャッポン・ウィーラセタクン:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第22回東京フィルメックスで上映された短編集『永遠に続く嵐の年』を観ました。イグアナとバトルするパナヒ映画とアピチャッポンは面白いけど間が…と映画仲間が苦言を呈していた作品で不安だったのですが、想像以上に混沌闇鍋映画でした。
『永遠に続く嵐の年』あらすじ
COVID-19によるパンデミックを主題にした短編アンソロジー作品。7人の錚々たる映画作家が7つの異なる物語を語り、この未曾有の世界的危機における多くの様相に声が与えられている。カンヌ映画祭で特別招待作品として上映された。
※第22回東京フィルメックスサイトより引用
イグアナvsハトvs守備力3000のパナヒおかん…うわ、前からクソパワポが!!
コロナ禍数年が経ち、『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』や『春原さんのうた』のように表面的なコロナ描写から抜け出した傑作が生み出されるようになってきたが、この短編集を観ると、現状の異様さと制限から新しいアイデアを打ち出すのはまだまだ困難なようだ。しかしながら、ジャファル・パナヒに関してはそんなことお構いなしにドキュメンタリーの中のハッタリでもって観客を共犯関係に持ち込む傑作を颯爽と打ち放った。ペットのイグアナが外を見つめる。すると卵がある。横から鳩が、ジワジワと近づき、うんしょと卵を温め始める。カットが切り替わると、卵が増殖している。イグアナはそれを食べたそうに見ている。とはいえ、外に出られないので、タンス下の穴にのそのそ引きこもる。そこへピンポンとチャイムがなる。受話器のモニターは乱れすぎていて誰が来ているのかが分からない。訪問者がやがて現れる。ガチャと扉が開くと、完全防御のパナヒおかんが降臨するのだ。おかんはコロナ禍で不安なのか、イグアナに「あっちに行って」と悪霊退散しようとしているのを家族が止めに入るのだ。ホームビデオなのに、確かなカット割りでイグアナvsハトvsパナヒおかんの構図が爆誕しているのが面白い。そしてその構図からの着地点の鮮やかさに拍手した。完璧な短編でしょう。
これを観た後に、凡庸で暗いだけが取り柄のアンソニー・チェン作品、未熟すぎる実験映画マリク・ヴィタルに触れると頭が痛くなるのだが、極め付けは『シチズンフォー スノーデンの暴露』のローラ・ポイトラスの陰謀論ドキュメンタリーだ。zoom画面で、監視サービスの陰謀を共有していくのだが、ここで新入社員に魅せたい労力だけかかったクソパワポ(おっと言葉が悪かったここは敬意を称して”神”パワポと呼びましょうか)が眼前に広がるのだ。読ませる気がない小さな字と無数の点が、いきなり立体展開し初めて三次元の情報に化ける時、頭が痛くなりました。テーマもつまらなすぎて虚無。
ドミンガ・ソトマイヨールとデヴィッド・ロウリーは、画作りの映画となっており、映画を観た気にさせる。正直雰囲気映画の域を出ていないが悪くはない。
トリを飾るアピチャッポン・ウィーラセタクンはコロナ禍関係なしの独自世界観を形成しており、蛍光灯に照らされたベッドに多様な虫と爬虫類を置き、小さな社会を捉えていた。爬虫類がアチアチ手を上げ下げしながら蛍光灯を歩くところに性癖が刺激された。ヘビフロッグch好きの私にとってはアタリな作品でした。
全体的にアタリハズレが大きい短編集と言えよう。
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