【JAIHO】『アーフェリム!』自らの暴言に気づかぬ世界

アーフェリム!(2015)
Aferim!

監督:ラドゥ・ジューデ
出演:テオドール・コルバン、ミハイ・コマンノイウ、トマ・クジン、アレクサンドル・ダビヤ、ルミニツァ・ゲオルギウetc

評価:70点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

第65回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(最優秀監督賞)を受賞した『アーフェリム!』がJAIHOにて配信された。『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』により日本でも注目されつつあるルーマニアの鬼才ラドゥ・ジューデ監督。本作もまた一癖二癖あるパワフルな作品となっていました。

『アーフェリム!』あらすじ

『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』(2021)で第71回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞したルーマニアの鬼才ラドゥ・ジューデ監督が2015年に発表した、19世紀のルーマニアを舞台にロマ民族を奴隷として扱ってきた歴史を風刺したコメディ・ドラマ。題名の「アーフェリム!」とは喝采を意味する「ブラボー!」という意味。第65回のベルリン映画祭で銀熊賞となる監督賞、第11回北京国際映画祭最優秀撮影賞を受賞、またルーマニアで最高に権威のある国家映画賞、ゴポ賞2016では作品賞、監督賞はじめ主要12部門を独占した。

 1853年ルーマニア南部のワラキア。地元の法執行官コスタンディンと息子のイオニタは、地主の貴族カンデスクの領地から金を奪って逃亡したロマの奴隷カルフィンを追い、馬に乗って旅に出た。2人は山々を抜けて様々な村を訪れ、聞き込みを続けてついにカルフィンを捕らえることに成功した。カルフィンは、地主の妻スルタナに誘惑されて関係を持ち、それが原因でカンデスクに殺害をほのめかされたため逃げたと事実を明かす。コスタンディンとイオニタは、カルフィンと一緒にいた子供の逃亡奴隷ティンティリックも捕らえ、4人で帰路につくが…。

JAIHOより引用

自らの暴言に気づかぬ世界

1853年ルーマニア。法執行官コスタンディン(テオドール・コルバン)と息子のイオニタ(ミハイ・コマンノイウ)が馬で移動していると、目の前に老婆が現れる。「悪魔が来るぞ」と蔑視するコンスタンディンは、無闇に事情聴取を行う。病気の亭主を運んでいると知ると、「コレラかもしれないからあっちへ行け」と追い払う。二人は逃亡したロマを探しに旅に出ている。しかし、口を開けばコスタンディンは暴言を吐き散らす。彼は、目の前に映る者をとことん見下し、力でもって問題を解決しようとしており、少し弱腰な息子にOJTの感覚でこのような仕事の仕方を教え込む。

本作が興味深いところは、人の振り見て我がふりを直すかと思いきや、ドン引きして終わる場面があるところだ。道中、司祭が現れ、行動を共にする。ユダヤは○○、トルコは××と巨大な主語でもってラベリングを行い、ありあまる語彙力で司祭は悪口を言い放ち、コスタンディンの発言を全て跳ね返す。この光景を「早く終わらないかな」とイオニタは見守る。

市場では人身売買が盛んに行われており、奴隷の前で「いくらだ」と生々しいビジネスの会話が行われたりする。本作は、差別的な社会において、個人は他者の暴言を見てドン引きすることもあるが、感覚が麻痺してしまい我が振りを直視することが難しいことを暴いている。

The Happiest Girl in the World』では、CM撮影のため身の回りで強烈な干渉を受けながら引きつった笑みを見せ続ける少女の痛々しさから、閉塞感を描いた。『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』ではコロナ禍におけるマスク像を利用して、人間が纏う仮面について考察した。『アーフェリム!』では差別的発言を撒き散らす人を通じて、感覚が麻痺した社会を描こうとした。彼の着眼点は今トップクラスに鋭いものと言えよう。

ラドゥ・ジューデ監督関連記事

【MUBI】『THE HAPPIEST GIRL IN THE WORLD』世界で最も幸せそうに見える女性
【ネタバレ考察】『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』ハリボテのマスクは、アバターを現実に引き摺り出す
【MUBI】『UPPERCASE PRINT』プロパガンダの皮をひらいてとじて
【MUBI】『THE DEAD NATION』写真だけで語るルーマニア史

※MUBIより画像引用

created by Rinker
Big World Pictures