エッシャー通りの赤いポスト(2020)
RED POST ON ESCHER STREET
監督:園子温
出演:藤丸千、黒河内りく、モーガン茉愛羅、山岡竜弘、上地由真、縄田かのん、鈴木ふみ奈、藤田朋子、田口主将、諏訪太朗etc
評価:採点不能
おはようございます、チェ・ブンブンです。
『愛のむきだし』、『冷たい熱帯魚』で知られる鬼才・園子温がワークショップで制作した作品『エッシャー通りの赤いポスト』が2021/12/25(土)より渋谷・ユーロスペース、大阪・第七藝術劇場、福岡・kino cinéma天神にて公開される。
株式会社ガイエさんのご好意で一足早く観賞したので、感想を書いていきます。
『エッシャー通りの赤いポスト』あらすじ
カリスマ映画監督・小林正の新作オーディションに、夫の遺志を継ぎ女優を目指す女性、「小林監督心中クラブ」のメンバー、興味本位の者など、有名無名の女優たちが集まる。一方の小林監督は、エグゼクティブプロデューサーの無茶な要求に困惑し、シナリオ執筆もはかどらず追い詰められていた。そんなとき、監督の前にかつての恋人が現れる。
※Yahoo!映画より引用
園子温、エキストラ目線の『8 1/2』
鬼才というのは、自分のスランプを映画化したがるものだ。フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』を始め、ボブ・フォッシー『オール・ザット・ジャズ』、コーエン兄弟『バートン・フィンク』など今までたくさん作られてきた。その多くは監督や脚本家、舞台振付師など現場のトップ、あるいはトップに近い者が主人公である。しかしながら、園子温版『8 1/2』こと『エッシャー通りの赤いポスト』はエキストラ目線で監督のスランプを捉えている。
大物俳優を夢見る者、監督のファン集団たちがオーディションを受ける。そこには、身体に収まりきらない程の情熱があり、オーディション会場であっても殺気こもった迫真の演技を魅せる。
しかし、監督は全然脚本を仕上げることができない。往年の名作にも脚本が全然完成しない状態で制作したものはある。自分たちの作品も、その伝説に乗っかれるはずだと空元気で進む。脚本に口出しする女、無茶苦茶なオーディションに頭を抱えるスタッフの、そして暴走するエキストラによる混沌が2時間半かけて描かれる。
スランプを客観視するためにエキストラに目を向け、現場の陰で活躍する者に光を当てるアイデアは非常に面白かったのですが、2020年代において監督の痛みを女性が癒す話は少し厳しさを感じた。確かに、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』のような傑作もあるのですが、本作の場合無数の女性のエキストラが亡霊のように現れては消えを繰り返し、監督に映画愛を伝える演出となっているので、女性が映画の駒としてしか機能していないように見え問題かなと感じた。
一方で、ユニークな演出が多いのも確かだ。
例えば、オーディション会場に女性たちが向かうと、入り口の前で工事が行われている。この工事現場を乗り越えないと会場に辿り着けないのだが、工事現場の職員が通せんぼしている。それを彼女たちは強行突破する。これは、オーディションの特性を象徴したシーンと言える。目と鼻の先にある栄光。しかし、そこまでの道のりは険しい。手に届きそうで届かず、届くのは監督を応援する声のみというオーディションの残酷さを物語っているのだ。
緊急搬送からの黄泉の国の入口を経た園子温監督が、園子温色を限りなく透明にさせて自分と映画の関係を見つめ直した『エッシャー通りの赤いポスト』は2021/12/25(土)より渋谷・ユーロスペース、大阪・第七藝術劇場、福岡・kino cinéma天神にて公開である。
※映画.comより画像引用