チタン(2021)
TITANE
監督:ジュリア・デュクルノー
出演:ギャランス・マリリアー、ヴァンサン・ランドン、ナタリー・ボイヤー、ドミニク・フロ、ミリエム・アケディウ、Théo Hellermann、Agathe Rousselle etc
評価:55点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
カンヌ国際映画祭は毎回閉塞感ものがパルムドールを獲ることになっていて個人的に不満があるのですが、第74回カンヌ国際映画祭はまさかまさかの車と女性が交わり妊娠するバイオレンス映画『TITANE』がパルムドールを獲った。女性監督を無理やり受賞させたのでは?みたいな非難をチラッと目にしたのですが、個人的にはたまにはこうした作品が獲ってほしいものである。面白いか否かは別として私は今回のパルムドールを嬉しく思っている。そして、早速本作を観て観たのですが、昨今流行している女性の痛みの外部化としての映像表現に特化した意欲作でした。
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『TITANE』あらすじ
Following a series of unexplained crimes, a father is reunited with the son who has been missing for 10 years. Titane: A metal highly resistant to heat and corrosion, with high tensile strength alloys.
訳:原因不明の連続事件の後、父親は10年前に行方不明になった息子と再会する。チタン:熱や腐食に強い金属で、引張強度の高い合金。
パルムドール受賞作は車と交わり妊娠する殺人鬼の話だった件
アレクシア(Agathe Rousselle)は幼少期に交通事故に遭い、金属を頭部に埋め込まれる。モーターショーで仕事をした帰り。車に乗ったところ、ファンに執拗なラブコールを受け、勢いに任せて殺してしまう。汚れを落とそうとする彼女の前に何故かモーターショーの車が現れ、彼女はその車に強姦されてしまう。
精神不安定となった彼女は、次々と人を殺し指名手配犯になる一方で、腹に子を宿している。車との間にできた子なのだろうか?彼女は不安に押しつぶされそうになりながら彷徨う。
本作は、デヴィッド・クローネンバーグの『クラッシュ』の理論を援用し、抑圧された女性の痛みの外部化を計ろうとしている。特に顕著なのは、金属と肉体との交わりを通じて男性による抑圧や侵入を描いていることにある。序盤、ファンが車に乗った彼女に対して窓から体をねじ入れようとする光景は、女性の安全圏を破って侵入しようとしてくる様子を示唆している。そして、頭部の金属片は父親との痛い思い出がへばりついていることを示す。
彼女は心身ボロボロとなり、それから自由になろうと殺人を犯すが、生の渇望が彼女を痛みから解放することなく、転がるようにして消防士の男ヴァンサン(ヴァンサン・ランドン)の家にたどり着き共依存関係となっていく。
つまり『Swallow/スワロウ』や『透明人間』と同じ系譜を辿る作品であるのだ。
ただ、一方で強烈な暴力描写が見掛け倒しに感じてしまう。自己満足の暴力描写に留まってしまうのが残念だ。ショッキングだが、そのショッキングな描写はそれだけの意味しか持ち合わせていない。『クラッシュ』しかり、『イレイザーヘッド』しかりゲテモノ映画の中に注ぎ込む哲学が浅く感じてしまい、単なるゲテモノ映画として終わってしまったと思った。
本作は驚きの展開の連続なのでこれ以上言うのはやめておきます。きっと日本公開すると思うので、貴方の目で車と交わり妊娠する女性から社会の痛みを感じ取ってみてください。