ヴィクトリア(2020)
Victoria
監督:ソフィー・ベノート、リザベス・デ・ケウラール、イザベル・トレネール etc
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
イメージフォーラムで上映されているサニーフィルムドキュメンタリー映画2作品。『クレストーン』に引き続き、『ヴィクトリア』を観賞しました。本作は第70回ベルリン国際映画祭でカリガリ賞を受賞している。カリガリ賞といえば、春先に公開された『ハイゼ家 百年』(こちらもサニーフィルム配給)やチリの壮絶なストップモーションアニメーション『THE WOLF HOUSE』、7時間半の伝説的白黒映画『サタンタンゴ』などが受賞している。日本からも園子温監督の『愛のむきだし』が受賞している。ラインナップを見ると分かるとおり変わった映画が受賞していることが多い。そして『ヴィクトリア』も例に漏れず変わった映画であった。
『ヴィクトリア』概要
都市計画が頓挫した砂漠のゴーストタウンに移住した青年を追ったドキュメンタリー。ベルギー出身の女性監督3人組がメガホンをとり、2020年・第70回ベルリン国際映画祭フォーラム部門で最高賞にあたるカリガリ賞を受賞した。アメリカ、ロサンゼルスから車で2時間ほど内陸へ移動したところにあるカリフォルニア・シティ。1960年代、ある富豪がこの地をロサンゼルスに次ぐ街として開発しようとしたが、大量の道とゴルフコース、ボーリング場の建設を後に計画は頓挫し、砂漠の中のゴーストタウンとなった。そんなカリフォルニア・シティの地に、波乱に満ちたロサンゼルスでの暮らしを捨てて移り住んだ青年ラシェイ・T・ウォーレン。彼にとってこの砂漠の地は、人生に希望の光を灯すユートピアであった。
沙漠を彷徨う魂は生を岩に刻んだ
カリフォルニアといえば、皆さんは何を想像するだろうか?ゴールデンゲートブリッジや『ブリット』にも登場した急勾配の坂を思い浮かべるであろう。しかし、本作で登場するカリフォルニアは沙漠である。ロサンゼルスとカリフォルニアの間にある巨大な沙漠。かつて富豪たちが都市開発しようとゴルフ場を作った場所。しかし、都市は発展することなく打ち棄てられた。高校時代にカリフォルニアに少し留学しており、なんとなくのカリフォルニア像を持っていた私は、この荒廃とした地を目の当たりにし驚愕した。
そして、そんな虚無を歩くラシェイ・T・ウォーレン一家が本作の中心となる。かつては都市で住んでいたこの家族は今、ロサンゼルスを離れ、荒野を彷徨いながら暮らしている。彼は父親だ。打ち棄てられた土地を整備する仕事をしながら、片道1時間半かけて高校に通う。何故、そんなそんな遠くの学校に通うのか?荒野で生きる彼を受け入れる学校はそこしかなかったのだ。
同じような境遇を持つ者たちが、学校で得た僅かな知識を糧にロマンを抱く。自分の状況を西部開拓時代の人々に重ね合わせたり、ブラックホールが違う次元に繋がっていることに羨望を抱く。自分の生活を肯定するために。
かつてインターネットがない時代。世界がずっとずっと広かった時代。無限に続く大地の中で、自分の生をその土地に刻もうとした。シエラ・デ・サン・フランシスコの岩絵群やタッシリ・ナジェールのように岩に絵を描くことで、自分たちの生活をアーカイブ化させたように。ラシェイ・T・ウォーレンは名もなき大地、いやひょっとすると既に命名されているかもしれないが、自分だけの世界となった大地に自分の轍を刻むようにして名前をつけていく。そして、何百年後の人が自分を発見することを祈り、岩に自分の名を刻む。
スマホの縦画面を効果的に使い広大な大地を閉塞的に描く。これにより、どこへでもいけそうでどこにもいけない者の魂を象徴させている。彷徨うだけしかない者が日常の中で微かな生を感じ、それを大地に焼き付ける。歴史という荒野でみたら彼らはその他大勢である。しかし、それに抗おうとする。これは、荒野に生きる者の本能的生の渇望を捉えた作品であり、かつて人類が大地に生の痕跡を残した動きをアーカイブした宝石のような作品でした。
ケリー・ライカートの『ミークス・カットオフ』、『ウェンディ&ルーシー』と併せて観たいですね。
P.S.カリフォルニアというのがミソな気がする。カリフォルニアといえば、ジェントリフィケーションにより地価が高騰しすぎて、大手IT企業に勤めていても車上暮らしを余儀なくされるような世界になっている。人が暮らせなくなった都市と対応するように、退廃的ながらも自由な暮らしとしての沙漠を捉えているのではとも思ったりした。
※映画.comより画像引用
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