【 #死ぬまでに観たい映画1001本 】『ピノキオ』初期のディズニーアニメが攻めている件※ネタバレ考察

ピノキオ(1940)
Pinocchio

監督:ベン・シャープスティーン、ハミルトン・ラスク
出演:メル・ブランク、ドン・ブローディー、ウォルター・キャトレット、マリオン・ダーリントン、フランキー・ダロ、クリフ・エドワード、ディック・ジョーンズ、チャールズ・ジューデルス、ジャック・マーサーetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

今、世界は空前の『ピノキオ』映画ブームとなっている。マッテオ・ガローネがかつてピノキオ役を演じ大炎上したロベルト・ベニーニにおじいさん役をやらせた『PINOCCHIO』を筆頭にギレルモ・デル・トロやロバート・ゼメキスがピノキオ映画を作っている。2010年代はCGの発達により、『シンデレラ』、『ふしぎの国のアリス』、『美女と野獣』が実写化されてきた。だが、カルロ・コッローディ作の童話「ピノッキオの冒険」程、狂っていて監督の変態性を出せる題材は盲点となっておりなかなか実写化されませんでした。ようやく、監督のフェチが存分に投影できるということで盛り上がってきた訳だ。基の1940年のディズニーアニメは「死ぬまでに観たい映画1001本」に掲載されているものの、実は観たことがなかった。ディズニーランドのアトラクションで観た気になっていたからだ。そこで今が旬だと思い、観てみることにしました。ネタバレありで考察書いていきます。

『ピノキオ』あらすじ

第二次世界大戦中に製作された、ディズニー長編クラシックス第2作が低価格で登場。ゼペット爺さんの深い愛情で育てられた、あやつり人形“ピノキオ”と多彩なキャラクターが繰り広げる大冒険を描いた感動作。

※amazonより引用

初期のディズニーアニメが攻めている件

これは論文とかでも見かけないので、自分の雑感でしかないのですが、初期ディズニー映画の攻め方が鋭利だと思っている。当時のハリウッドは、ヘイズ・コードという自主規制が敷かれており、暴力的な描写や性的描写がタブーとされてきた。もちろん検閲制度ではなく、ハリウッドが炎上を防ぐ自衛のために設定したガイドラインである。世界初の長編カラーアニメーション映画である『白雪姫』は原作にあった紐での絞殺や櫛での刺殺といった残忍な内容が削除されている。後の『シンデレラ』も原作が壮絶な復讐劇であったのに対してマイルドなハッピーエンドとなっている。ディズニー映画が老若男女楽しめる映画を作る起源はここにあるのだ。しかしながら、ふと思う。残忍な原作をわざわざ脚色加えて映画化しなくてもよいのでは?と。

その感触を片手にフィルモグラフィーを観察していると、いかがわしい作品が二つあった。一つは『ふしぎの国のアリス』である。ヘイズ・コードを無視するようにサイケデリックで性的な内容となっている。特に、うさぎの家で巨大化する場面におけるアリスが巨大化する足で玄関を破壊する展開はフェティッシュだったりするのだ。そして、『ふしぎの国のアリス』以上に凄まじいのは『ピノキオ』である。原作が今でいうオンラインサロンに搾取される人を戯画したような壮絶で暴力的で陰惨な内容だった。それを『白雪姫』の大成功に伴うカラーアニメ第二弾として映画化しようとするところが攻めている。一応、ある程度わかりやすくマイルドになっているとのことですが、それでも随所に気持ち悪い暴力の片鱗が見え隠れする。浮浪者コオロギのジミニー・クリケットは可愛らしいヴィジュアルに反して、人形に痴漢をしたり、巨大な妖精に欲情したりする。J・ワシントン・ファウルフェローの相方であるギデオンはハンマーで彼をボコボコにする。興行主であるストロンボリはピノキオに強烈なパワハラを働く。そして、ヘイズ・コード的にアウトなのは、監禁島で子どもたちが酒とタバコに溺れ、暴動状態になるところが平気で映し出されているのだ。おじいさんの家をじっくり観察すると、子どもの尻を叩く体罰時計があったりする。ひょっとすると、アニメはヘイズ・コードの影響を受けなかったのかもしれないが、性的暴力的描写が規制されていた時代にここまで暴力的な内容を盛り込めるところに感動しました。今でいったらミヒャエル・ハネケやアリ・アスターが好き好んでやりそうな内容である。

さて内容に目を向けると、ジミニー・クリケットが無能中間管理職マウントおじさんで笑える。ピノキオのマネジメントを妖精から任されるものの、開始早々ピノキオに先輩風を吹かせ始める。そして、ピノキオを分かりにくい指示で詐欺から守ろうとし、彼がいうこと聞かないと不貞腐れて職務放棄する。それでもって、妖精に詰められると、ピノキオに「俺(ジミニー・クリケット)は関係ないと言え」と耳打ちするのです。クソ野郎にもほどがあります。また、おじいさんがピノキオに惚れ込みすぎていて、燃ゆるピノキオの指を水槽に入れ、金魚の住処を汚染させておきながら平気な顔するシーンがあるなどどうかしています。猫や金魚がドン引きするのも納得である。

このように胸糞展開が所狭しと並べられ、最後には、のばまんの軟禁コースター回さながらの地獄絵図となる。『白雪姫』(DEFAの白雪姫三度死ぬバージョン)や『ふしぎの国のアリス』(服の色が原作挿絵に合わせて黄色にしたバージョン)といった童話映画は後に原作原理主義者によって再映画化される傾向がありますが、これは割と究極体なんじゃないでしょうか。そう考えるとディズニー映画に対する興味が刺激されてきました。次は『ジャングル・ブック』でも観ようかしら。

※the hollywood reporterより画像引用

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