【考察】『モンスターハンター』ポールの異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めてネルスキュラを愛するようになったか

モンスターハンター(2019)
Monster Hunter

監督:ポール・W・S・アンダーソン
出演:ミラ・ジョヴォヴィッチ、ミーガン・グッド、ロン・パールマン、ディエゴ・ボネータ、トニー・ジャー、ジョシュ・ヘルマン、山崎紘菜etc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日、モンハン未履修の友人と『モンスターハンター』を観てきました。『モンスターハンター』といえば、双剣やガンランス、弓などといった武器で強力なモンスターを倒していくアクションゲーム。ハンター仲間と徒党を組んで強大なモンスター狩りを楽しめる為多くのゲームファンに愛されている。私も映画にガッツリ嵌る前は『モンスターハンター ポータブル 2ndG』に明け暮れており、放課後に友人たちと井の頭公園で暗くなるまでラージャンやラオシャンロン、ヤマツカミなどを討伐していました。

さて、そんなモンハンをあのポール・W・S・アンダーソンが実写化した。ポール・W・S・アンダーソンといえば、『バイオハザード』シリーズでパートナーであるミラ・ジョヴォヴィッチをいかにカッコよく魅せるかに拘りすぎていて脳筋な物語になりがちな監督である。対岸にはポール・トーマス・アンダーソンという天才監督がいる為、「ダメな方のポール・アンダーソン」と揶揄されることもある。

私も彼の作品はあまり面白いとは思ったことないのですが、かつて『イベント・ホライゾン』という大傑作を撮っていたことを知っている。『惑星ソラリス』や『エイリアン』の要素をふんだんに盛り込み魅惑のビジュアルで紡いだあの魔界を観たいと思ってTOHOシネマズ渋谷へ行ってきました。

『モンスターハンター』あらすじ

2004年の第1作発売以降シリーズ累計6500万本を売り上げるカプコンの大ヒットゲームシリーズ「モンスターハンター」を、ハリウッドで実写映画化したアクションアドベンチャー。同じくカプコンの人気ゲームを原作に大ヒットを記録した「バイオハザード」シリーズの主演ミラ・ジョボビッチ&監督ポール・W・Sアンダーソンが再タッグを組んだ。エリート特殊部隊を率いる軍人アルテミスは砂漠を偵察中、突如発生した超巨大な砂嵐に襲われ、必死に逃げるものの一瞬にして巻き込まれてしまう。強烈な突風と激しい稲光の中で気を失ったアルテミスが目を覚ますと、そこは元いた場所とは違う見知らぬ異世界だった。その世界には近代兵器の通用しない巨大なモンスターが跋扈(ばっこ)し、そんなモンスターの狩猟を生業とするハンターがいた。アルテミスは元の世界に戻るため、次々と迫りくる巨大モンスターと激闘を繰り広げていく。「ワイルド・スピード SKY MISSION」などのハリウッド作品でも活躍するタイのアクション俳優トニー・ジャーや、「ヘルボーイ」のロン・パールマンが共演。日本からも山崎紘菜が参加し、ハリウッドデビューを飾った。

※映画.comより引用

ポールの異常な愛情
または私は如何にして心配するのを止めてネルスキュラを愛するようになったか

『モンスターハンター』をやったことのある人なら、ディアブロスやリオレウスとミラ・ジョヴォヴィッチとの死闘が目玉になっているだろうと思うはずだ。実際に予告編では、そのような戦闘シーンにフォーカスがあたっていた。ポール・W・S・アンダーソンのインタビューを読んでも、白羽の矢が立った映画化ではなく、彼は本当にモンハンが好きなんだということが伺えた(ちなみに彼の推し武器はヘヴィボウガンだそうです)

しかしながら、映画を観るとアンバランスを極めた作品となっている。なんとディアブロスやリオレウスの戦闘シーンよりも明らかにミラ・ジョヴォヴィッチとトニー・ジャーとの肉弾戦の方が長いのだ。『ゼイリブ』における、この世の真理を知ることができるサングラスをかけるか否かを巡って延々と喧嘩をするシーンのように、序盤にかけて延々と二人は拳で対立する。言葉が通じない二人。そして言葉よりも先に拳が出てしまう二人は、トニー・ジャー演じるハンターの家を破壊しながら、モンスターを差し置いて殴り合う。二人とも丈夫だ。ちょっとやそっとのことでは気絶しない。原作でも武器を使わずパンチすることは可能だ。しかし、そこまでパンチを強調しなくても良いのでは?と思う程に長時間に渡る肉弾戦が続く。この果てしない肉弾戦は、もちろん監督のミラ・ジョヴォヴィッチ愛によるものではあるのだが、映画を観ていくと、終盤にかけて芽生えていく二人の友情の硬さに説得力を帯びていく。肉体による表面的なコミュニケーションを叩き込むことで、ツイストもなく直球でモンスターとの戦闘を並べていく本作に「心」を染み込ませることに成功していたのだ。

そして、肝心なモンスターとの戦闘だが、監督のモンハン愛が奇妙に作用し、マイナーモンスターであろうネルスキュラを前面に押し出している。毒攻撃を得意とし、地下に巣を作っているネルスキュラ魅力を『エイリアン』、『スターシップ・トゥルーパーズ』における気持ち悪さの文法を存分にイカして描いている。仲間の一人がネルスキュラに卵を植えつけられ、寄生されてしまう様子。無数のネルスキュラがウジャウジャと兵士を虐殺していく陰惨とした高揚感はまさしく『エイリアン』や『スターシップ・トゥルーパーズ』である。しかし、ネルスキュラから毒を剥ぎ取る際への拘りが安易なオマージュから一歩先の領域に展開されていくから素敵だ。ネルスキュラの外殻を剥ぐと、ドロッと臓器のようなものが出てくる。そして、針をヌルッと出して毒属性の武器を生み出していく。ディアブロスやリオレウスの剥ぎ取りシーンと比べて異常に力が入っているのだ。

ハリウッド大作、ゲーム原作映画でありながら、ライトなファン層に向けた作りに妥協せず、監督の推しを最優先に映画を作っているところがストレートで捻りの無い話を予測不能の渦に導いているところに段々と感動を抱き、私もいつの間にかネルスキュラを愛するようになりました。

『イベント・ホライゾン』のポール・W・S・アンダーソンが戻ってきて大満足です。

ただ、1点だけ言及しないといけないところがあります。公開前にアジア人差別だと物議を醸し、セリフの一部を削除した問題がある。本作は、異世界転生ものだ。異世界転生ものは、我々が無意識に行ってしまいがちな文化的差異から来る見下しの視線を異世界に避雷針として流すことができると考えている。ある種、オリエンタリズム批判に対する言い訳である。ただし、本作でトニー・ジャーにミラ・ジョヴォヴィッチがチョコレートをあげるシーンを観るとポール・W・S・アンダーソンの無意識なる差別が強烈に感じてしまう。明らかに文化的差に対して見下しの目で観てしまっていいるのだ。異文化に対する敬意が全くないため、異世界の話であるにもかかわらず強烈な差別が浮き彫りになってしまったと思う。これは残念なことであった。

P.S.山崎紘菜は確かに出演していました。しかし、セリフが「助けて」2言だけで「東宝に圧かけられたからしょうがない。本当は全編ミラだけを映していたいが1分だけ譲ってあげよう」と監督は思ったんじゃないかなと疑惑を抱きました。

※映画.comより画像引用