【MyFFF】『思春期 彼女たちの選択』職業訓練校に行く少女、毒親に耐える少女

思春期 彼女たちの選択(2020)
ADOLESCENTES

監督:セバスチャン・リフシッツ

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルにセバスチャン・リフシッツ新作『思春期 彼女たちの選択』がありました。『リトル・ガール』や『LES INVISIBLES』とジェンダー問題に鋭く切り込んだドキュメンタリーを撮るイメージが強いセバスチャン・リフシッツ監督ですが、本作はフランスの教育を静かに見つめる内容となっている。フランスでは、中学生が終わると進路を考えなくてはいけなくなる。高校→大学に行くのか?それとも専門学校に行き、介護や保育士、エンジニアの道へ進むのか中学生の時から選択を迫られる。本作では、エマとアナイス二人の少女の人生の岐路を通じて、フランス社会を捉えていました。

『思春期 彼女たちの選択』あらすじ


育った環境も、性格も、似ている点は1つもないけれど大親友のアナイスとエマ。13歳から18歳、思春期まっただ中を生きる少女2人の成長を追ったドキュメンタリー。5年の間に、アナイスとエマはどんな女性に成長し、友情はどう変化していくのか。彼女たちの道のりからフランス社会の実情が浮き彫りに。
※MyFFFより引用

職業訓練校に行く少女、毒親に耐える少女

「あなたの成績には興味はない。私の授業を邪魔したら許しません。たとえ2点でも努力していれば評価するし、17点(フランスの試験は20点満点)でも、態度が悪ければ許しません。」自分の中高時代に比べてキツい言葉を投げる先生に、教育実習した自分としては少しドン引きする。しかしながら、映画を観ると学級崩壊レベルに先生に反抗する思春期の男女の活発さが突きつけられるので、その厳しい発言は伏線として機能する。治安悪めな学校の中で仲良しコンビのアナイスとエマにフォーカスが当たる。なんだかんだ先生に聞かれた内容を答えられ、地頭の良さが光るアナイスと静かめなエマ。この二人は進路選択の岐路に立たされる。フランスの学校システムはどうやら早い段階で人生の選択を迫られるらしく、日本の理系/文系のようなざっくりさはなく、「介護や保育士になりたいのなら職業訓練学校ね」といった形で細かく進路を選ばないといけない。人の役に立ちたい一心で職業訓練学校の道を歩んだアナイスは、ビッシリと詰まった介護実習に唖然としながらもこなしていく。ふっと窓辺でタバコをふかしながら虚空を見つめる彼女の不安と対比するように、青春の自由を謳歌し水辺で遊びまくる姿が挿入される。

一方でエマは映画の道に進みたいと考えているのだが、親がなんでも拒絶する毒親だ。「あんた、この前はカメラマン、この前は監督になりたいっていってたじゃん。何が女優になりたいだ?普通に高校選んでくれ。」と呪いの言葉をかけ続けている。『新世紀エヴァンゲリオン』のシンジを取り巻く人々のように、自由の道を示し、自分はリベラルだとアピールしながら、人の思想を内なる保守的思考に落とし込もうとする凶悪さがある。彼女は、演劇コースで厳しい指導を受けながらも独りで進路を切り開こうとするのだ。

そんな彼女の成長の途中には2015年のシャルリー・エブド襲撃事件がある。あの事件はフランスを騒然とさせ、事件後の週末には大規模なデモが実施される程となった。授業では「表現の自由」について議論がされる。それを家に持ち帰り家族と激しく議論する。そこには親子関係はなく、人として対等な議論が生じようとする。いかにもフランス的な家庭風景が紡がれ、それがフワフワとした彼女の人生に少しづつ根が芽生えてくるのです。

確かに、2015年のテロ事件や2017年フランス大統領選挙と2010年代後期のフランスは激動の時代であったのだが、それがあざとく見えてしまったところが玉に瑕。少女たちの思想に影響を与えた描写としてはあまりに唐突な気がするのだ。また、映画学校進学を目指すエマの生き様は映画好きとして魂を揺さぶられるものがあったものの、映画やドラマを観て映画を学ぶシーンが全くなく、単に親から離れたい想いだけが原動力になっている感じがして、彼女の将来が不安になりました。

P.S.彼女たちがシャルリー・エブド事件に困惑する一方、当時フランス留学中だったチェ・ブンブンはホストマザーに「デモいくぞ!」と言われ、広場に連行されました。フランスではデモは日常茶飯事で、街の至る所でデモの下見をしている人がいるのですが、この時の言論の自由デモはアンジェの市民全員集合状態でした。

※Internation Film Festival Entrevues Belfortより画像引用

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