『記憶にございません!』現実は三谷幸喜映画のようだ。いや、それ以下だ。

記憶にございません!(2019)

監督:三谷幸喜
出演:中井貴一、ディーン・フジオカ、石田ゆり子、草刈正雄、佐藤浩市etc

評価:50点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

フジテレビ系・土曜プレミアムで三谷幸喜の政治風刺劇『記憶にございません!』が放送されるとのことなのでAmazon Prime Videoで観てみました。本作は公開前からダメダメな『デーヴ』なのではと囁かれていた。これは彼の前作『ギャラクシー街道』がいつの時代だよと思わずにはいられない差別的な内容とほとんどのギャグがスベっている異常さを持っており、予告編から漂う業界人の学芸会たる腐敗臭にガッカリしたせいなのかもしれない。実際に映画芸術では2019年のワーストワンに選ばれていることから、シネフィルや映画評論家からは嫌われているようだ。予告編に拒絶反応を引き起こし、公開当時は観なかったのですが怖いもの観たさで挑戦してみました。

『記憶にございません!』あらすじ


三谷幸喜の長編映画監督8作目で、記憶をなくした総理大臣が主人公の政界コメディ。史上最低の支持率を叩き出した総理大臣を中井貴一が演じるほか、ディーン・フジオカ、石田ゆり子、草刈正雄、佐藤浩市ら豪華キャストが顔をそろえる。国民からは史上最悪のダメ総理と呼ばれた総理大臣の黒田啓介は、演説中に一般市民の投げた石が頭にあたり、一切の記憶をなくしてしまう。各大臣の顔や名前はもちろん、国会議事堂の本会議室の場所、自分の息子の名前すらもわからなくなってしまった啓介は、金と権力に目がくらんだ悪徳政治家から善良な普通のおじさんに変貌してしまった。国政の混乱を避けるため、啓介が記憶を失ったことは国民には隠され、啓介は秘書官たちのサポートにより、なんとか日々の公務をこなしていった。結果的にあらゆるしがらみから解放されて、真摯に政治と向き合うこととなった啓介は、本気でこの国を変えたいと思いはじめようになり……。
映画.comより引用

現実は三谷幸喜映画のようだ。

本作は相変わらず寒いギャグの釣瓶打ちで、もはや伏線回収や群像劇としての関係性が複雑に絡む面白さは失われている。冒頭、病院から逃げ出す男が居酒屋へ逃げ込み、テレビで石を投げられている自分を見て総理大臣だと気づくシークエンスで「記憶障がい」だとわかるのに、後から言葉で「記憶障がい」の説明を始めるところには三谷幸喜の自身のなさが伺える。そして、ワイドショーのネタをつまみ食いして政界の裏側は想像で作ったような茶番を観ると、『ラヂオの時間』の三谷幸喜はもういないんだと思ってしまう。ただし、この映画が製作された頃から政界が厚顔無恥、開き直りを極め、コロナになった今、菅総理の「仮定のことは考えない」発言に始まり5つの小と行ったスローガンや謎のカルタばかり作っている小池百合子、未だに東京五輪が開催できると信じている森会長と、毎日のように寒いコントが繰り広げられる今からすると本作はタチの悪いドキュメンタリーのように映る。あのグダグダな脚本、行き当たりばったりなパワーワードとダサいドヤ顔の回転寿司は今の日本を描いているのだよと言い訳しているのであれば『記憶にございません!』は100点満点の出来だ。

ただ映画として観た際、これは福田雄一映画にも言えることだが観客を信用せず人の行動を全てセリフで説明してしまうのはやはりいただけない。例えば、中井貴一演じる総理大臣が、側近たちに突然各大臣の名前を答えろとクイズを出題される場面がある。記憶を失ってから、側近サイドからすると操り人形にするには中々使いづらい行動をする彼を失脚させようと彼の無能さを証明するため、クイズを出しており、彼が答えられなさそうにしているので観客はもうダメか?と思うのだが、間一髪総理大臣は的中させる。仲間が「よく答えられましたね」と言うと、「実はそんなこともあろうことかともう勉強したのさ」と返答する。映画なのだから、カメラが総理大臣のプライベートを覗き見し、勉強頑張っている映像挟めばいいのに説明してしまうのだ。欲をいえば、総理大臣が改心したことを示せれば勉強シーンのショットすらいらないのですが大衆映画として百歩譲ろう。小説やラジオと違うのだから、せめてセリフでの説明は回避しようよと思う。

『パラサイト 半地下の家族』だって、石で殴られてもあの人が軽傷で済んだのは、洪水で重そうな石が浮かび上がって来る=安物の石という構図を事前に示しておいたからだ。その描写には説明セリフはないが、振り返った時にゾワっとする興奮がある。群像劇は、群の複雑な動きを後で反芻し、思わぬものが見つかる感動に力点を置くべきなのだ。無論、『ラヂオの時間』において次々と押し寄せる修羅場、例えばドラマの音をどう作るのか?というのは即興的なアイデアで突破してみせる直線的な魅せ方もある。今の三谷幸喜にはどちらの演出もできていない哀しさがあります。

哀しいかな。まさかこんな茶番が今の日本だと思うといたたまれない。

自分はこんな地獄のようなコメディの中で生きられるのか不安になりました。
※映画.comより画像引用

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