ウルフウォーカー(2020)
Wolfwalkers
監督:トム・ムーア、ロス・スチュワート
出演:オナー・ニーフシー、エヴァ・ウィッテカー、ショーン・ビーン
評価:85点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
巷で大評判の『ウルフウォーカー』を観てきました。本作は、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』同様恐らくアカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされる作品だが、ピクサー/ディズニーにはこの賞を譲ってほしい程にレベルが高い作品でした。
『ウルフウォーカー』あらすじ
アイルランドの歴史や神話を題材にした「ブレンダンとケルズの秘密」「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」で連続してアカデミー長編アニメーション部門にノミネートされたトム・ムーア監督とアニメーションスタジオ「カートゥーン・サルーン」が、前2作に続くケルト3部作の3作目として手がけた長編アニメーション。アイルランドのキルケニーで伝えられてきた、眠ると魂が抜けだしオオカミになるという「ウルフウォーカー」を題材に描いた。中世アイルランドの町キルケニー。イングランドからオオカミ退治のためにやって来たハンターを父に持つ少女ロビンは、森の中で出会った少女メーヴと友だちになるが、メーヴは人間とオオカミがひとつの体に共存した「ウルフウォーカー」だった。魔法の力で傷を癒すヒーラーでもあるメーヴと、ある約束を交わしたロビン。それが図らずも父を窮地に陥れることになってしまうが、それでもロビンは勇気を持って自らの信じる道を進もうとする。
※映画.comより引用
アカデミー賞長編アニメーション賞を獲ってほしい件
2010年代の映画はゲームに歩み寄った。『シュガー・ラッシュ』、『ピクセル』といったようにゲームのコミカルさを映画に取り込んでいった。2020年になると映画的演出を自然な形で取り込む。『ウルフウォーカー』の場合、ファミコンのRPGゲームのように太鼓昔の要塞を俯瞰して描写する。『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』のようにシームレスに狼と人間に入れ替わり激しい戦闘を行う。決戦になると、画面は上部下部を黒くし、擬似的にシネラマサイズを生み出すことで躍動感を生む。今やゲームは、例えば『The Last of Us Part II』のように映画に近いものとなっている。故に映画もゲームに歩み寄るのは必然と言えるのだが、もはや時代はゲームを自然に使いこなす時代がやってきたのだ。トム・ムーア、ロス・スチュワートの民俗学的な描画にそれが加わる。そして、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』以上に王道ながら緻密なストーリーテリングが紡がれている。
ロビンと父は仲が良い。ロビンはオオカミ狩りをしたくてウズウズしているが、父は危ないからと突っぱねる。それは優しさによるものなのかと思って映画を観ていくと、父はイングランドから派遣されてきた者で町からよそ者扱いされている。父は優しさではなく、組織としてクビにならないために娘に問題を起こしてほしくないと思っていたことが分かる。彼の表情に見える傷のような翳りは戦歴ではなく、組織の歯車として働かされた時に出る過労の生傷という哀愁が滲み出てくるのだ。
そんな父の苦労を理解するにはまだ若過ぎるロビン。彼女は、狼少女=ウルフウォーカーことメーヴと出会い、何故狼が人間を傷つけるのかを知る。狼と人間は共存できることを悟った彼女は父にそのことを話すのだが、父は組織の歯車故、それを突っぱねてしまうのだ。
ポスター、予告編からは想像できないほどシリアスで壮絶な暴力と哀愁が画面を覆い尽くす。子どもは複雑な政治について理解することは難しい。理想論で語る。だが大人には理想論でどうこうできない政治というものがある。その狭間の苦悩を丹念に描いた本作は、ディズニー/ピクサーが描く欺瞞のような社会問題要素より遥かに強固なものといえよう。
本作がアカデミー賞長編アニメーション賞を獲ったら、私はこの部門を評価したい。
※映画.comより画像引用
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