逃げた女(2020)
原題:도망친 여자
英題:The Woman Who Ran
監督:ホン・サンス
出演:キム・ミニ、ソ・ヨンファ、ソン・ソンミ、キム・セビョク、クォン・ヘヒョetc
評価:65点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第21回東京フィルメックスにてホン・サンス最新作『逃げた女』を観てきた。本作は、第70回ベルリン国際映画祭で監督賞を受賞している。比較的カンヌ国際映画祭を狙いにいくイメージが強いホン・サンスでしたが、もしカンヌに出品しようとしていたらコロナ禍で注目を浴びるのが難しかっただろう。深田晃司監督に「私には真似できない」と言わせた異様なクローズアップを多用して今回も元気にキム・ミニ映画を作ってきました。
『逃げた女』あらすじ
ベルリン映画祭で監督賞を受賞したホン・サンスの最新作。夫の出張中、郊外に暮らす3人の女性の友人たちを訪ねるヒロインをホン・サンス独特のスタイルで描く。女性たちが醸し出す親密な雰囲気は、常に男性の存在によってかき乱される。猫の絶妙な演技にも注目。
※東京フィルメックスサイトより引用
ホン・サンスの呼吸 壱ノ型 急接近
Gam-hee(キム・ミニ)は夫が出張するタイミングで3人の友人のところに訪れる。一人目の女性(ソ・ヨンファ)と肉パーティを開く。他愛もない話をしていたら、引っ越してきた隣人が家にやってきて「猫をなんとかしてほしい」と懇願する。流浪の猫に餌をやり、平穏に暮らしている女性。しかし、男に「泥棒猫」呼ばわりされ、ムッとなった彼女は「猫も生きなければなりません」と言う。平行線の戦いを、猫は呑気に見守る。ホン・サンスは、ここで天下の宝刀を抜き《ホン・サンスの呼吸 壱ノ型 急接近》を猫に発動する。その際に撮れる奇跡的なショット。これ一つでホン・サンスファンは大歓喜だろう。映画における偶発性を信じて、フレームに収めきったその耽溺もののショットを景気良く魅せ、第二、第三の女へとシフトする。
女性の他愛もない会話。過去を懐かしむ会話とそれを妨害する男の存在が観客からみて空っぽなGam-heeのアイデンティティを肉付けしているように見える。そして、Gam-heeは監視カメラの映像、インターホンの映像、そしてスクリーンをマジマジと見る。他者の人生を覗き込むアクションをしているのだ。これは映画というメディアの特性を捉えていると言える。映画は他者の人生を覗き込む行為だ。《覗き》を通じて、自分の人生と比較し、時に共感したり涙するものだ。Gam-heeは3人の女の男問題を覗き込み、自分の心のモヤモヤを癒していく。だが自分の目の前に嫌な男の存在が浮かび上がると再び覗きという現実逃避に走るのだ。
つまり『逃げた女』というのは、我々が現実逃避するように映画を観る行為を映画的に落とし込んだ作品と言えよう。
ヘンテコでホン・サンス映画ファン以外にはキツい作品と思われるが、個人的に猫やりんごにまで発動するホン・サンスの呼吸に満足した。
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※映画.comより画像引用
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