悪い子バビー/アブノーマル(1993)
BAD BOY BUBBY
監督:ロルフ・デ・ヒーア
出演:ニコラス・ホープ、クレア・ベニート、ラルフ・コッテリル、カーメル・ジョンソンetc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。『アングスト/不安』、『クリーン、シェーブン』に並ぶVHS時代のカルト映画『アブノーマル』を観賞しました。ハードコアな『ルーム』という噂が流れる本作は第50回ヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞を受賞している。というよりかは、そもそもアボリジニ映画の巨匠ロルフ・デ・ヒーア監督の異色作という側面を持っている。オランダ出身のロルフ・デ・ヒーア監督は1959年にオーストラリアに移住。映像学校で、演出技法を学んだ後、飛行機好きの少年とおじさんの交流を描いた『Tail of a Tiger』で長編デビューを果たす。そして、本作でヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞を受賞後、2000年代から『THE OLD MAN WHO READ LOVE STORIES』を筆頭にオーストラリア先住民(アボリジニ)と外部の人間との関係性に迫る作品を制作するようになり、『十艘のカヌー』では、第59回カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員特別賞を受賞。2014年の『Charlie’s Country』では主演を務めたDavid Gulpililが同映画祭男優賞を受賞している。って訳で、VHSカルト映画の劇場公開を祈りつつ急遽ロルフ・デ・ヒーア特集をすることにしました。
※2023/10/20(金)より邦題『悪い子バビー』で公開決定
『アブノーマル』あらすじ
Bubby has spent thirty years trapped in the same small room, tricked by his mother. One day, he manages to escape, and, deranged and naive in equal measures, his adventure into the modern and nihilistic life begins.
訳:バビーは母親に騙されて同じ小さな部屋に閉じ込められて30年を過ごしてきた。ある日、彼は脱出することに成功する。
※IMDbより引用
監禁おじさんカリスマアングラバンド歌手になる
仄暗い部屋でおっさんと母が暮らしている。ただ、その光景は異様なものだ。親子で暮らしているというよりかは、母親に飼育されているという印象が強い。隙間から這い出るゴキブリを猫のように捕まえ喜ぶバビー。そんな彼を母は冷たく飼育しているのだ。
「外は危険だからガスマスクしないといけない」と言い聞かせながら。時間の概念が失われたかのような世界で、時折、母の欲望を満たす装置としてしか機能しておらず白痴な35歳になろうとする男の日常は、突如父と思しき存在の出現で崩壊する。父は久しぶりの再会に喜ぶが、いきなりバビーは彼を絞め殺そうとするのだ。母は、「バビーちゃんは時折実験をするのよ。息をしているのか確認したかっただけだよねー」と語るが、明らかに彼の手つきは殺しの手つきである。不穏な空気が所狭しと並べられ、遂に家族は消滅してしまう。
感動の再会通り越して家族の崩壊となってしまい、いきなり外の世界に放り出された彼は、常識も何もないので彷徨うことしかできない。パン屋で、食料を手にするも、お金の概念がないので、いきなりお縄になりかけたりする。
しかし、『チャンス』のピーター・セラーズ然り、『ツイン・ピークス』カイル・マクラクラン然り、異様な白痴はただ歩くだけで人々を魅了するのだ。美女やジャンキーが次々と彼を気に入り、自分たちのテリトリーに招き入れる。いつしか彼は、アングラバンドのヴォーカルへと上り詰め、カルト的人気を勝ち取っていくのです。彼の歌う曲はめちゃくちゃだ。
《動くな、猫》
と叫ぶ曲、あたりに暴言をぶちまける曲。他者からすれば異次元の歌詞だ。しかしながら、それは紛れもなくバビーの反省が投影されている。外の世界との断絶から生じる感情の爆発。そして劣悪環境を共にした猫の存在。全て彼の人生そのものなのだ。
本作は理解し難い存在がどこから出現したのか?その理解し難さの正体は何かを掘り下げていき、その得体の知れなさがカルト的人気を勝ち取っていく心理的プロセスを描いている。一見するとただのゲテモノ映画に見えるが、本作は生活環境に恵まれなかった者の人生逆転劇としてもキラリと光るものがあり、明日も人生を頑張ろうという気分にさせてくれる。
ニコラス・ウェンディング・レフンの『ドライブ』に近い監督キャリアにおける異色中の異色作であるが、これがVHS止まりの作品で終わってしまっているのは勿体無い。是非とっも劇場公開して欲しい作品でした。
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