『GREENER GRASS』習い事しすぎて犬になった少年/サッカーボールを赤子だと思う主婦

GREENER GRASS(2019)

監督:ジョサリン・デボアー、ドーン・ルエブ
出演:ジョサリン・デボアー、ドーン・ルエブ、ドット・ジョーンズetc

評価:95点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

昨今、世の中は#MeToo運動により男性社会である映画業界を変えていこうとしています。映画メディアは良い意味でも、悪い意味でも《女性監督》という言葉を使い、映画業界の変化、女性監督ならではの力強い視点を捉えようとしています。しかしながら、一般的に女性監督が作る映画は、ジェンダーによる壁との闘いがメインとなりがちだ。シャンタル・アケルマン然り、マーレン・アーデ、グレタ・ガーウィグ等。2020年代は、女性だろうと男性だろうと、ジェンダーの側面から語られない程の作家性を持った監督が登場して注目されても良いのでは?そう思っていた矢先に、トンデモナイコンビが現れた。ジョサリン・デボアー&ドーン・ルエブだ。ジョサリン・デボアーはThe Upright Citizens Brigade Theatreの即興パフォーマーであり、テレビシリーズ『Ghost Story Club』や『CollegeHumor Originals』に出演する女優であります。一方、同じくThe Upright Citizens Brigade Theatreのパフォーマーであるドーン・ルエブもオフ・ブロードウェイで女優として活躍している人物です。そんな二人が、テレビシリーズとして製作していくうちに一本の映画となったこのデビュー作『GREENER GRASS』は、彼女たちがひたすらに異常さを追い求めた恐るべきデビュー作であります。それはポスターや予告編からもよく分かるのですが、ジョサリン・デボアはインタビューで次のように語っています。


And both of us love work that’s absurd and surreal, but we lose interest a little bit when we can’t be emotionally grounded in the story or you don’t feel connected to any of the characters, so that was a big thing for us when we were doing the feature.

We don’t want our audience to be bored with this or to not care, so we wanted every single thing that happened that was heightened and unusual to be grounded in something deeper that was meaningful. We hope that when people watch it, they are able to recognize something familiar in something that is so ridiculous.
訳:ふたりとも(ジョサリン・デボアー&ドーン・ルエブ)不条理で非現実的な作品が大好きですが、ストーリーに感情的になじめられなかったり、キャラクターとのつながりを感じられなかったりすると、興味が失われてしまいます。これが特徴的に演出した大きな所以なのです。私たちは観客にこれに飽きさせたり気にしたりしたくないので、起こったすべての出来事が深く、異常であることがより深い何かに基づいていることを望みました。私たちは、人々がそれを見るとき、彼らがとてもばかげている何かに馴染みのあるものを認識することができることを願っています。
moveablefest.comインタビュー記事より引用

さて、そんな奇妙な作品を観たのですが、これが素晴らしいブルジョワジー風刺となっていました。日本公開して欲しい作品なので、紹介していきます。

『GREENER GRASS』あらすじ


Suburban soccer moms find themselves constantly competing against each other in their personal lives as their kids settle their differences on the field.
訳:郊外のサッカーママは、自分の子供がフィールドで問題を解決するにつれて、私生活の中で常にマウントと取っていきます。
imdbより引用

習い事しすぎて犬になった少年/サッカーボールを赤子だと思う主婦

ピンクにブルー、この世のものとは思えない激しい色彩。まさしく、レゴのプリンセス系シリーズの色彩をうっかり現実に持ち込んでしまったサイケデリックで悪趣味な世界。日本に例えると、自由が丘だろうか?セレブが、何不自由せずに優雅な日々を送っている様子が描かれている。主婦は、皆矯正器具をつけ、絵に描いたような笑みを浮かべながら子どもたちの教育に熱心です。しかし、その笑みは偽りである。常に嫉妬心を抱いている。ママ友ジルは、こともあろうことか自分の夫であるデニスと激しい接吻を交わしている。それに対抗してリサはジルの夫ニックと接吻を交わす。その後、ジルは何事もなかったように夫と接吻を交わすのだが、リサは自分が長身すぎて(演じるドーン・ルエブの身長は188cm。常時高いヒールを履いているので、195cmぐらいある。)歪な逆身長差カップルになってしまっている状態にコンプレックスを抱き、同様の接吻ができない。

この作品は、ブルジョワジーのマウント精神と、高潔さを演出しようとして愚かで馬鹿馬鹿しい行動を取ってしまう様子を痛烈に風刺している。ニックは、ウォーターサーバーのボトルに水を入れる。しかし、ワンガリ・マータイのMOTTAINAI理論に影響受けたのか、その水はプールから注がれたものだったりする。それを平気でレストランで取り出し、「水は結構、自前のがあるから」と取り出すのです。妙に、人の目線を気にするので、レストランでウェイターが食事を地面にぶちまけると、「いいんですよ」と床に落ちたものを家族で食べ始めるのです。

移動は省エネを考えてか、ゴルフカート。対向車が現れると、「はよ行けや、コラっ!」と思う心をグッとこらえて、「どうぞ、どうぞ」と譲り合うのだ。

そうこうしているうちにドンドン事態は悪化していく。ジルファミリーは、不向きなのにサッカーやピアノ、空手(韓国の国旗を掲げているのに、掛け声が日本語な点に注目)を息子にやらせていきます。典型的な英才教育ママっぷりをジルは発揮するのです。習い事地獄に燃え尽きたためか、遂には息子は犬になってしまいます。

一方リサは、すっかり倦怠期に入って精力はないのに子どもだけは欲しいので、こともあろうことかサッカーボールを腹に入れて、「妊娠しちゃった」と吹聴して回るのです。そして、お腹からサッカーボールを取り出し、毛布で包み、さも自分の赤子のように振る舞い、写真館で家族写真を撮ろうとするのです。

どうでしょうか?面白そうでしょ?

コントのように、毒の強いギャグを連発しながら、それは大きなモザイクとなっていき、ブルジョワジーの本音と建前のグロテスクさを暴き出す。このジェンダーの壁を超えた圧倒的作家性は2020年代さらなる開花を魅せると思いました。ジョサリン・デボアー&ドーン・ルエブコンビの今後の活躍に期待である。

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