スターフィッシュ(2018)
STARFISH

監督:A.T.ホワイト
出演:バージニア・ガードナー、クリスティーナ・マスターソン、エリック・ビークロフト

評価:100点

映画忘年会で、本作を2019年のベストに入れていた方がいた。一風変わった『アイ・アム・レジェンド』な本作は、A.T.ホワイトという方のデビュー作なんだとか。話を聞いているうちに観たくなったので米国iTunesで観賞してみました。これがとてつもなく大傑作でありました。

『STARFISH』あらすじ

A unique, intimate portrayal of a girl grieving for the loss of her best friend, which just so happens to take place on the day the world ends.
訳:親友の喪失を嘆く少女のユニークで親密な瞬間はまさに世界が終わる日に起こります。
※imdbより引用

A.T.ホワイトとは何者なのか?調べて観ると、アルバムやゲーム体験を創るメーカー”We Are Tessellate”の共同マネージャーにして、ゲーム実況者、UKバンド”Ghostlight”のヴォーカルなんだとか。webサイトneolのインタビュー記事を読むと『人狼―JIN-ROH―』や『もののけ姫』といったジャパニーズアニメーションが好きというサブカルオタクである。

そんな彼が自分の感性を炸裂させた本作は、映画的興奮に満ち溢れていた。

主人公オーブリーは親友グレースを失い、その哀しみ故、彼女のアパートに忍び込む。次の日、街に人気がなくなっていることに気づく。そこに、男が現れ、そのまま何かに怯えるように逃げていくのだ。

彼を追うオーブリーは、怪物と対峙する。しかし、観客には全くその正体は見えない。見えざる不気味さにハラハラドキドキしていると、突然無線がかかるのです。

「おい、聞こえるか?俺の言うことを聞け!目を閉じて扉へ向かうのだ」

おいおい、扉の方って怪物が荒れ狂っているところではありませんか!しかし、言うことを聞くと怪物はいなくなるのだ。

通常、この手の一人サバイバルから、仲間が現れるタイプの作品では、互いに協力して地獄を乗り越えていく。しかしながら、オーブリーは何故か、中盤から声の主をシャットアウトし、カセットテープを集めて内なる世界に引きこもり始めるのだ。

THIS MIXTAPE WILL SAVE THE WORLD.

というミックステープに書かれた言葉は、他者のいる世界に向いておらず自己に向いていたのだ。

これは、喪失感を抱える者が一人になりたいけれど、誰かに構ってほしい厄介な心情を描いているといえる。だからこそ、段々怪物に物怖じしなくなる。そして、自分の世界を強調する為に、途中からアニメになったり、フォースを覚醒させ異次元へ飛び込むのだ。DRED CENTRALに掲載された監督インタビューによれば、内向的な者の心理を表すために常にカメラが彼女を捉えるように工夫を施したとのこと。まっすぐ他人を見ることのできない者から見た視点として、見えそうで見えなかったり、突然消えたりする怪物描写が象徴的に描かれていると考えることができます。

また、ミックステープを集めることは過去の断片を集めることであり、精神が壊れてしまった者が自分を修復するために、過去の記憶を集めて再度自己を形成することを象徴しているように見えます。《過去》を集めるという要素を強調するために、ミックステープが使われているので、A.T.ホワイトの懐古主義に留まるだけの陳腐な描写にはなりません。

デビュー作にできることは全てねじ込もうとするA.T.ホワイトのパワーは、意外なことに丁寧で繊細な感情の爆発となっている。

これは何としてもでも日本劇場公開してほしい。映画館でまた観たい!

というわけで、皆さんA.T.ホワイトという名を頭の片隅にでも入れておいてください。

既にもう2本企画があり、そのうち一本が本作の後継にあたる作品で、ポール・トーマス・アンダーソンの『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』にインスピレーション受けた物語になっているとのこと。

これは化ますよ。

P.S.後に明かされる怪物のビジュアルが『サイレント・ヒル』っぽいなと思っていたら、インタビューで『サイレント・ヒル』に影響受けていたと語っていました。なんかそういったことをちゃんと言ってくれるA.T.ホワイトに好感度上がりまくりです。