【映画批評月間】『アリスと市長』不思議の国に迷い込んだアリスは哲学の刃を振るう

アリスと市長(2019)
原題:Alice et le maire
英題:Alice and the Mayor

監督:ニコラ・パリゼ
出演:ファブリス・ルキーニ、アナイス・ドゥムースティエ、Nora Hamzawi etc

評価:90点

昨年、フランスで話題になった政治会話劇。カイエを始め、批評家評判が高く、セザール賞でも主演のアナイス・ドゥムースティエが女優賞を獲った。しかし、大衆の間でも本作は話題となり、週間観客動員数ランキングでも存在感を表した作品である。内容が内容な為に、フランス語、ないし英語にかなり精通してないと輸入しても楽しむことが難しい作品だけに、映画批評月間で観られたのが幸運でありました。

『アリスと市長』あらすじ


リヨンの市長ポール・テラノーは、「考え」が一切浮かばなくなり、若き哲学者アリスに助けを求めることに。『木と市長とメディアテーク』では高校教師を揚々と演じたルキーニが26年後、まさにロメール的コメディで、燻し銀の魅力で老いとともに人生を見つめ直す市長を演じる。そして、大きな瞳と溌剌とした魅力で、観客の心を捉える人気の若手女優、ドゥムースティエ演じる哲学者との真摯で、遊戯に満ち、心打たれる対話によってお互いが言葉の交わりによって「思考」を、そして「人生」を取り戻していく。第72回カンヌ国際映画祭監督週間出品。
※アンスティチュフランセより引用

不思議の国に迷い込んだアリスは哲学の刃を振るう

リヨン市庁の職員に採用されたアリスは開幕早々「あなたのポストはなくなりました」と言われてしまう。代わりのポストを用意したと人事に言われるのだが、仕事内容は「市長に《アイデア》を与えてください。ほな頑張って。」と実に抽象的で困惑する。『不思議の国のアリス』は幼少期の心身の不安を具現化したファンタジーであるが、哲学の刃を持ち大人になったアリスの腕を離すまいと不思議という名の不条理が押し寄せてくるのだ。アリスが歩けば不条理にあたる。右から左から不条理がこんにちはをする。

1時間で本を読めと言われ、環境問題発言による炎上火消しグループの会議や怒れる学生のヒアリング会に訳もわからず捻じ込まれる。テキトーにまとめた案はアッサリと通過したりする。誰かが怒っているらしいのだが何故怒っているのかも分からず、フワフワした言説だけが市庁舎を飛び交うのです。気になる人とまともに会話する時間もないので、ワーグナーのオペラに誘い、歩きながら、あるいは幕間に話をしようとするのだが、そうはさせまいとオペラ座に来ていた上司や市長に妨害されてしまう。

二進も三進も行かない不条理の渦の滑稽さは、日本の政治と重なるところもあり爆笑である。

サラリーマンになると、そろも調整屋になると次々と不条理が押し寄せてくる。定義されているようで全くされていない抽象的な単語、それを哲学の力で軌道修正を行い、黒幕として不条理をチェスの駒のように動かすアリスの華麗さは、働く者に勇気を与えるであろう。

映画批評月間だけでは勿体ない。是非とも一般公開してほしい作品でした。

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