『プラットフォーム』「明らかだ」おじさんと中抜キングダム

プラットフォーム(2019)
THE PLATFFORM

監督:ガルダー・ガステル=ウルティア
出演:イバン・マサゲ、アントニア・サン・フアンetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2021/1/29(金)より新宿バルト9ほかにて公開の『プラットフォーム』をクロックワークスさんのご好意で一足早く観させていただきました。本作は、夏頃から一部界隈で話題になっていた作品。上からドンドン食べ物が降りてくるユニークなビジュアルが魅力的である。この手の映画を私は「一発芸映画」と呼んでいる。『CUBE』や『SAW』のように、インパクト抜群のヴィジュアルとミニマルな登場人物でいかに世界観を広げていくのか?普遍的な風刺を描けるのかが重要となってくる。ガルダー・ガステル=ウルティア長編デビュー作である『プラットフォーム』はシンプルながらも難しい「全員が幸せになる方法」について、豊富な手数と鋭い洞察力で斬り込んでいました。

『プラットフォーム』あらすじ


ある日、ゴレンは目が覚めると「48」階にいた。部屋の真ん中に穴が開いた階層が遥か下の方にまで伸びる塔のような建物の中、上の階層から順に食事が”プラットフォーム”と呼ばれる巨大な台座に乗って運ばれてくる。上からの残飯だが、ここでの食事はそこから摂るしかないのだ。同じ階層にいた、この建物のベテランの老人・トリマカシからここでのルールを聞かされる。

ルール1:一ヶ月ごとに階層が入れ変わる
ルール2:何か一つだけ建物内に持ち込める
ルール3:食事が摂れるのはプラットフォームが自分の階層にある間だけ

トリマカシは殺人を犯して、この建物にいるらしく、彼が持ち込んだのは切れ味が鋭いナイフだった。一ヶ月後、ゴレンが目を覚ますと、そこは「171」階で、ベッドに縛り付けられていた…。『CUBE』『SAW』などの監禁ホラーと『ハイ・ライズ』『スノーピアサー』などの風刺映画を混ぜ合わせ、『パラサイト 半地下の住人』以上に縦構造になった階級社会を描く SF サスペンス・スリラー。
※プレスより引用

「明らかだ」おじさんと中抜キングダム

ゴレン(イバン・マサゲ)が目を覚ますと、真ん中に空洞があいた部屋にいた。対岸には老人(Zorion Eguileor)が鎮座している。壁には「48」と書かれている。ゴレンはある手続きを踏んでここにやってきたのだが、異様な雰囲気に狼狽し、老人に質問を投げつける。

「ここはどこ?」「あなたは誰?」「この穴は何だ?」「下はどこまで続いているのか?」と。

しかし、打算的な彼はそう易々とこの部屋のルールを教えるような者ではない。この空間を知り尽くしている老人は「明らかだ」とだけ語り、ゴレンの情報と等価交換することを条件に空間のルールを語る。定期的に上の階から食べ物が降りてくる。しかし、そこにあるのは残飯だけだ。この空間は数百もの層に分かれているらしく、上層部から豪勢な食べ物にありつける。だが、上層部は酒池肉林、必要以上に飲み食いする為、48層までくると見るも無残な姿になっており、100層を超えると骨の一つすら残らなくなってしまうのだ。そして、重大なルールが2つある。

1つ目は食べ物を確保することができないということ。例え、りんご一つポケットにでも入れようものなら、その層の者が死ぬまで部屋の温度が上昇または下降していくのだ。だから、制限時間内に食べないといけない。

そして2つ目は、一ヶ月ごとにランダムに別の層へ転送されるとのことだった。例え、上層部にいても、次は200層で何もありつけないかもしれないのだ。この空間に贈られる者は入所する前に一つだけ物を持ち込める。多くのものがナイフやボウガンといった武器を選ぶ中、ゴレンは小説『ドン・キホーテ』を持ち込んでしまう。彼は凶暴化する人たちを前に文化を胸に自我を保てるのだろうか?

本作は、この世の顔とでも言おう「中抜キングダム」を寓話的に描いている。そして、寓話でありながらも人間の欲望のリアルを抽出する為に設定した「一ヶ月ごとに階層が入れ変わる」というルールが効果的に使われている。例えば、ずっとどん底にいた者が、急に第7層に送られたらどうするだろうか?今まで耐え忍んできた欲望を解放するだろう。悟りを開き、社会システム全体を変えようとする者が現れたとしても、中々社会は変わらない。システムに呑まれた者は、「この世を変えることなんて不可能なのは”明らかだ”」と開き直って自己中心的になるからだ。どうして自分だけが我慢しないといけない?自分が我慢しても他の人が贅沢するなんて耐えられないと。そして、社会を変えようとする人は「心に余裕がある者」であることもここでは描かれる。

心に余裕がなければ自分を救えない。自分を救えなければ他者にも優しくできない。

こうした社会システムに呑まれる者と社会を変えようとする者の軋轢を、エレベーターのような空間とういう断絶に象徴させて、様々な層における地獄を『神曲』のように提示させていく手腕に脱帽した。

今、世界は新型コロナウイルスで混乱している。全員がSTAY HOMEを守れば解決するのだが、様々な欲望、開き直り、政治が渦巻き、そのシンプルなルールが複雑骨折していく今だからこそこの傑作は多くの人に刺さるでしょう。

あなたは「明らかだ」と諦めますか?それとも全員がハッピーエンドになるように行動しますか?

あなたは自分を救う為に地獄に何を持ち込みますか?

ガルダー・ガステル=ウルティアの鋭い問いかけに、背筋が凍ることでしょう。

日本公開は2021/1/29(金)より新宿バルト9ほかにて

※imdbより画像引用

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