【Netflix】『アトランティックス』カンヌ国際映画祭グランプリ!マティ・ディオップが放つ亡霊

アトランティックス(2019)
Atlantique

監督:マティ・ディオップ
出演:Mame Bineta Sané、Amadou Mbow、Ibrahima Traoré etc

評価:50点

こんばんは、チェ・ブンブンです。

カンヌ国際映画祭マニアにとって、アフリカ映画は鬼門だったりする。アフリカ映画はなかなか日本で公開されない上、米国iTunesや輸入等でもなかなか入手できなかったりするのだ。しかしながら今年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞したセネガル映画『アトランティックス』はNetflixが世界配給権を獲得したお陰で、面白いことに『パラサイト 半地下の家族』やペドロ・アルモドバルの『Pain & Glory』より先に日本で観られる異例の状態となりました。アフリカ映画ファンとしては、初日に観ようと、『シティーハンター THE MOVIE』を後回しにして観賞しました。クラシカルかつビザールな作品でしたぞ。

『アトランティックス』あらすじ


裕福な男性との結婚を控えながら、秘密の恋に身を焦がすエイダを襲った大きな悲しみ。愛しい人にもう一度会いたいと思い続ける彼女の願いは、思わぬ形で現実となる。
※Netflixより引用

セネガル亡霊は羨望の焔を灯す

マティ・ディオップは『トゥキ・ブゥキ/ハイエナの旅』、『太陽を売った少女』で知られるセネガル映画の巨匠ジブリル・ディオップ・マンベティの姪である。彼女は、女優としてクレール・ドゥニの『35杯のラムショット』やティエリー・デ・ペレッティの『Sleepwalkers』に出演する一方、短編映画を積極的に撮っており、『トゥキ・ブゥキ/ハイエナの旅』に関するドキュメンタリーも製作している。そんな彼女の初長編監督は、不法移民としてヨーロッパへ渡ろうとする友人を撮った監督デビュー作のドキュメンタリー『Atlantiques』や『Mille soleils』など、彼女が短編映画で描いてきた、人の消失と移民の関係を文学的に紡ぎだそうとしている。

冒頭、工場の給料未払いで揉めているところが映し出される。給料を払えと上司に迫るのだが、上司も給料が十分にもらえてないらしい。上司もさらなる上司から金を催促しようと電話をかける様子が描かれている。結局金は支払われず、男たちはうなだれながらトラックに乗り帰路へつく。そこに一人の青年スレイマンがいた。スレイマンには恋人がいる。エイダだ。彼らは廃墟の中で愛を語る。いつもに増して積極的なスレイマン。何故だろう?エイダは彼に惹かれつつも、距離を置く。実はスレイマンは不法移民としてヨーロッパへ渡ろうとしていたのだ。そしてエイダにも悲しい現実が待ち受けていた。好きでもないのに、富裕層のオマールと結婚することが決まっていたのだ。互いに、《豊かになるため》という名目で、本能に背かなければならない。

アブドゥライ・ワッドが三権分立、政教分離を無視して政治を私物化したせいで、セネガルでは貧富の差が広がってしまった。セネガルの若者たちは国を棄て、スペイン等へ不法移民として逃げていった。それが2012年の大統領選で、軍隊を差しむけるワッド政権に立ち向かった。欧州の支援を受けずに自立しようと立ち上がったのだ。本作は、そんなセネガルの若者の熱気からインスパイア受けているような気がする。

マティ・ディオップが傲慢な富裕層に差しむける、亡霊は何度でも立ち上がるセネガル人の魂を投影しているように見える。そして、その亡霊の矛先がスレイマンにも向いているところに、不法移民として出て行くが結局何もできずにいるセネガル人に対する皮肉を感じる。そして、劇中何度も繰り返し投影される、遠い世界に対する羨望を示す海にセネガルならではの広大なる閉塞感が強調されていた。

面白い作品か?と訊かれたら、首をかしげるところもあるのですが、マティ・ディオップの私的な文学世界はインスピレーションを掻き立てるものがありました。

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