【自主オバマ映画祭】『Leave No Trace』感情を押し殺した森の生活『ウィンターズ・ボーン』デブラ・グラニック最新作

Leave No Trace(2018)

監督:デブラ・グラニック
出演:ベン・フォスター、トーマサイン・マッケンジーetc

評価:70点

あまりに閉鎖されていてアメリカ人ですら知らなかったオザークの世界を生々しく描いた『ウィンターズ・ボーン』で一躍有名になったデブラ・グラニックが8年の長い沈黙を経て、長編映画を作った。今回紹介する『Leave No Trace』は、ロッテントマトで驚異の100%。それも206の媒体全てで好意的な評価(2018/12/29時点)を獲得し、あのバラク・オバマ全大統領も2018年の好きな映画に選ぶ程アメリカ本国で話題となった作品だ。米国iTunesで配信されていたので、観てみました。

『Leave No Trace』あらすじ

ピーター・ロックの小説”My Abandonment”の映画化。PTSDになった男ウィルは、13歳の娘トムと森の奥底で生活していた。定期的に町に繰り出し買い物をしたり、森にやってくる人から薬を受け取ながらも、できるだけ人目を避けて生きていた。そんなある日、森の調査に来た保安官に見つかり捕まってしまう。そして、二人は自治体監視の元、社会復帰の訓練を強制的に行うこととなり…

感情を押し殺した森の生活

町山さんは『アリー/スター誕生

』と『シュガー・ラッシュ:オンライン

』で、「どちらも男は過去に囚われ、進化できないが、女性は簡単に先へ先へと進化できる」と指摘していたが、実は2018年アメリカ映画のトレンドがまさにこれだったのでは?と思い始めてきた。本作も同様のプロットで話が進み、保安官に捕まったことにより自治体に管理された生活を強いられるが、父親は森の生活に拘り、娘はドンドン新しい生活に慣れていき関係が崩れていく様子が描かれている。#MeToo運動を皮切りに、女性の権利主張。男性優位社会に対する怒りの鉄拳がぶつけられている時代が物語の軸のトレンドに影響を与えているのではと考えることができる。ただ、軸は一緒でも、3作品はそれぞれ全く違った顔を魅せるので、それぞれ新鮮な気持ちで楽しめる。

本作は、デブラ・グラニックの感情を押し殺した作風が健在だったことを証明した。通常の映画であれば、二人の男女が引き裂かれていく場面で、大げさに泣いてみたり、叫んでみたりと感情の爆発を入れがちだ。それが映画としてのメリハリを生み、感動を観客に与えるからだ。しかしながら、この作品はどんなに引き裂かれようと、黙って見つめあい、軽く接触するくらいなのだ。表情も、うっすらと喜怒哀楽が見えるだけ。常に映画が包む《哀》のベールを脱ごうとしないのだ。

それが、リアリズムを生む。まるでヘンリー・デイヴィッド・ソローの『森の生活』のように淡々と目の前で起きることを受け入れ、生きるためのことを感情抜きに綴っているような作風なのだ。その淡々としたリアリズムが、森に神秘性をまとう。『ウィンターズ・ボーン』同様、文明から隔絶され、動物に戻っていく人間の有様を映画全体が抱擁する作りとなっているのだ。

非常に地味で、宣伝しにくい作品なので、日本公開するか微妙なところだが、間違いなく2018年を代表する作品でした。

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