【ネタバレ考察】『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』データを活かす場としての図書館4つのポイント

ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス(2017)
Ex Libris: The New York Public Library

監督:フレデリック・ワイズマン

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

フレデリック・ワイズマン渾身の3時間ドキュメンタリーが岩波ホールで公開された。5月は楽しみな作品がなかっただけに、2時間前から並んで観ました。朝っぱらから宗教勧誘に遭い、ムッとなるものの(最近本当についてない。厄年かな?)、職業柄本作で描かれる《アーカイブ》に対する精神に惹き込まれました。そんなワイズマン最新作『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』をネタバレありで語っていきます。

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』あらすじ


世界中の図書館員の憧れの的である世界屈指の知の殿堂、ニューヨーク公共図書館の舞台裏を、フレデリック・ワイズマン監督が捉えたドキュメンタリー。19世紀初頭の荘厳なボザール様式の建築物である本館と92の分館に6000万点のコレクションを誇るニューヨーク公共図書館は、地域住民や研究者たちへの徹底的なサービスでも知られている。2016年にアカデミー名誉賞を受賞したドキュメンタリーの巨匠ワイズマンが監督・録音・編集・製作を手がけ、資料や活動に誇りと愛情をもって働く司書やボランティアの姿をはじめ、観光客が決して立ち入れない舞台裏の様子を記録。同館が世界で最も有名である理由を示すことで、公共とは何か、そしてアメリカ社会を支える民主主義とは何かを浮かび上がらせていく。リチャード・ドーキンス博士、エルビス・コステロ、パティ・スミスら著名人も多数登場。第74回ベネチア国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。
映画.comより引用

ポイント1:映画の中でも平等を魅せる。これがワイズマンの姿勢だ!

本作は、ニューヨーク公共図書館がミッションとしている、誰にでも開かれた情報提供の場というのを映画でも踏襲しようと徹底的な平等の目で描かれています。冒頭で「ユニコーン」について訊かれ、アカデミックに応える職員と貸し出し制限を食らっている人やスペイン語使いの人の対応に追われる職員を対比させたり、スマホで書籍の内容を隠し撮りする人を捉えてたりすることから分かる。また、他の監督であるならカットしてしまうであろう、図書館前で繰り広げられる死者の日パレードに映り込む男性器のコスプレで踊る男もしっかりと魅せていきます。このようにすることで、ニューヨーク公共図書館の精神の内部に入って行くことができます。

ポイント2:データを残す、データを活かす

図書館というと皆さんはどう思うだろうか?おっきな本棚?無料の漫画喫茶?実は、本作を観ると、図書館のあるべき姿が判ります。

図書館というのは「データをインフォメーションに加工する手伝いをする場」であるのです。

図書館は、一般的入手可能なベストセラーから入手困難な美術書、はるか遠い昔の資料を持っている。それは単にデータのアーカイブに過ぎない。データというのは、人の手に渡り、加工されることで価値のもったインフォメーションになる。しかし、コンピュータを使えない人や貧しい人、目の見えない人にとってデータを加工するのは至難の業。近年、時代の流れに取り残されて大事な情報にたどり着けない人がいる《情報格差》が問題となっているが、ニューヨーク公共図書館はそういった弱者のセーフティネットとして機能しようとしているのだ。誰でもデータを活かし、インフォメーションに変えることができ、それによって人生が豊かになることを目標としているので単に本の貸し借りに止まらない図書館員の仕事が見えてくるのです。

そして、一般市民から苦情がきてしまうホームレスにも図書館の情報へ不快感なくアクセスできるようにはどうすればいいのか?ベストセラーを買うか、高価で貴重な本を買うのか議論を交わす職員の哲学闘争に知恵熱が出てきます。

ポイント3:図書館員の仕事

本作では、膨大な図書館の姿を魅せてくれます。本に纏わるトークショーや、本の貸し借り、返却作業場などが映し出されるのはもちろん、子どもの為のプログラミング教室や中国人移民の為のパソコン講座、点字教室の様子などが映し出される。意外なところでは、黒人たちが集まるコミュニティが開催されたり、WiFiの貸し出し事業まで行われていることに驚かされます。図書館はインターネットを使えない人たちの孤独を癒す場、情報交換の場となっており、黒人たちは卸売の白人が材料の値段を不当に値上げしていることに怒りを顕にします。

さらにユニークなところでは、日本だと貸し会議室や幕張メッセなどで開催される就職セミナーが図書館で開催されていたりする。「5分で面接は終了します。5分で自分の性格と、想いを一致させるんだ。『社交性あります』と言いながら、小さい声で『シャコウセイがアリマス…』なんていっちゃだめだぜ!ほなやろう!」と面接が始まる。図書館の貸し会議室的運用方法の意外性に観る者はインスピレーション掻き立てられることでしょう。

ポイント4:カルチャーショック!自由すぎるアメリカの働き方

日本では、働く時にはスーツを着る。また、人の話を聞く時にはスマホなんか出さない。しかし、本作を観ると自由過ぎるアメリカのライフスタイルに驚愕します。

まず、講演会中にもかかわらず、最前列で編み物をしているばあちゃんがいたり、スマホで遊んでいたりする人がいるのだ。ブンブンも大学時代は一番後ろの席でレゴをしながら授業を受けたことがあるのだが、編み物をがっつりしながら、ホゥホゥと話を聞くおばあちゃんのメンタルが強すぎてびっくらたまげました。

また図書館員は私服の方が多く、中には民族衣装のような服を着ながら、何を仕入れるのか?民間企業とどう関係を結んでいくのか?はたまた、図書館に来るホームレスの対応について議論する方がいたり、はたまた本の仕分けを音楽聴きながら行っていたりします。日本だとなんでも精神論で片付けられてしまいますが、アメリカの仕事ができることが一番の目標という精神に目から鱗でした。日本だと、本当に非合理的、スピリチュアルなルール規則が多過ぎます。

最後に…

フレデリック・ワイズマンは80歳をゆうに越えながらも、切れ味を全く落とすことがありません。本作と合わせ鏡のような関係に当たる『ナショナル・ギャラリー』と比べると、演出に鋭さが増したと思う。図書館のinside/outsideを駆け抜け、そのまま図書館前のパレードで、普通の監督ならカットするであろう映ってはいけないものまで捉えてしまう超絶技巧に、圧倒されっぱなしの3時間でした。
ブロトピ:映画ブログ更新
ブロトピ:映画ブログの更新をブロトピしましょう!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です