【ネタバレ酷評】『世界の涯ての鼓動』ソマリアのオデュッセイアは朽ち果てた

世界の涯ての鼓動(2017)
Submergence

監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:ジェームズ・マカヴォイ、アリシア・ヴィキャンデル、アレクサンダー・シディグetc

評価:15点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

ヴィム・ヴェンダースはドキュメンタリー映画、劇映画交互に撮るマルチプレイヤーの巨匠である。そんな監督の新作『世界の涯ての鼓動』が日本に上陸しました。本作はアメリカ本国で酷評されRotten Tomatoesでは批評家賞賛率21%(2019/08/15現在)となっている。IndieWireは「この映画は沈んでいる」と潜水艦にかけて皮肉っている有様です。ただ、日本の場合以外にも評判が良い。これは!と思って観てみたのですが、残念ながらお世辞にも褒められた作品ではありませんでした。ネタバレありで語っていきます。

『世界の涯ての鼓動』あらすじ


「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」の巨匠ビム・ベンダース監督、「リリーのすべて」のアリシア・ビカンダー、「X-MEN」シリーズのジェームズ・マカボイ主演による恋愛サスペンス。フランス・ノルマンディーの海辺にあるホテルで出会ったダニーとジェームズは、わずか5日間で情熱的な恋に落ち、互いが生涯の相手であることに気付くが、生物数学者であるダニーにはグリーンランドの深海に潜り地球上の生命の起源を解明する調査、そしてMI-6の諜報員であるジェームズには南ソマリアに潜入して爆弾テロを阻止する任務が待っていた。互いの務めを果たすため別れた2人だったが、やがてダニーは潜水艇が海底で操縦停止となる事態に遭遇し、ジェームズはジハード戦士に拘束されてしまうという、それぞれが極限の死地に立たされてしまう。
映画.comより引用

ソマリアのオデュッセイアは朽ち果てた

ホローメスの『オデュッセイア』は映画史が始まる前から何百回、何千回も擦り倒された物語だ。今となっては、壮絶な冒険の末にあるカタルシスを生み出すフレームワークとして《ΟΔΥΣΣΕΙΑ》は使われているのだ。それだけに、多くの小説、映画はオデュッセイア的物語を紡ぐ際に、いかにしてこれから逃れるのかを考える。邪道を探すのだ。その点、本作は正面から『オデュッセイア』と向き合っている。ノルマンディーで女に恋したスパイは、彼女と再会することを生き甲斐にソマリア潜入するのだが、そこで現地兵士に捉えられて拷問に会う。死の淵を彷徨う。スパイの進路を妨げる兵士たちは、まるでスキュラのような存在だ。一瞬優しさを魅せたかと思うと毒牙を魅せ、一気に死の香りがあたりを充満していく。この魅惑の引力と、棘の食感はスキュラの持つオーラに近い。そしてカノジョに会うことを生の糧とし、地獄のソマリアを放浪する訳だ。そこにヴィム・ヴェンダースは、帰りを待つ者として、あるいは鏡のように反射する『オデュッセイア』としてアリシア・ヴィキャンデル演じる学者の潜水艦物語が紡がれていく。

恐ろしいことに、その二つは然程絡み合わないのだ。そして、時系列を掻き回し、さも絡んでいるように見えるのだが、じっくり見ると麺と汁が分離しているダメダメラーメンそのものなのだ。確かに、現実における一期一会というものはそういうもんだ。一度会った者同士が再び会うことなんてあまりないのかもしれない。ただ、これは映画だ。それも実験映画でも、アート映画でもない、物語ろうとする映画なのだ。潜水艦ミッションに励む女性パートは深海に沈んでしまっている。一大ミッションなのだが、海底付近での停電事故で死の淵へと追いやられるのだが、それはソマリアパートのコピーに過ぎず、同じ話を2度繰り返しているだけ、それも薄味でというところに退屈さを感じてしまうのだ。

ドン引きのエンディング

そんな本作は思いがけないところで終わってしまう。潜水艦の中にいる彼女は海底から天を見る、そしてソマリアパートはスパイが唐突に海に飛び込むと爆撃が始まって、彼を束縛する者が全部爆殺される。そこで映画は終わってしまうのだ。映画におけるクライマックスのその後、おそらく後30分かけて描かないといけないものをぶつ切りにしてしまっているのだ。

これは、観客にエンディングを託す演出なのでしょう。しかしながら、あれだけ死の恐怖というものを描いておきながら、あまりに御都合主義な爆発で終わらせてしまうなんて、なんとガサツなことだろうか。『ベルリン・天使の詩』の繊細さはどこへ行ってしまったのだろうか?

『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』、『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』といったドキュメンタリー作品ではあれだけ繊細に人を描写できていたのに、なんで雑なんだ。

海や自然の美しさに頼っているタチの悪さも重なり、褒められた作品に見えませんでした。無念。

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