【東京国際映画祭2019】『異端の鳥/ペインテッド・バード』暴力、暴力、暴力のホロコースト

異端の鳥/ペインテッド・バード(2019)
The Painted Bird

監督:ヴァーツラフ・マルホウ
出演:ステラン・スカルスガルド、ハーヴェイ・カイテル、バリー・ペッパー、ウド・キアetc

評価:|80|点(絶対値80点)

おはようございます、チェ・ブンブンです。

東京国際映画祭でヴェネツィアをドン引きされ、批評家評最下位を獲得したコンペティション作品『ペインテッド・バード』を観ました。雰囲気『動くな、死ね、甦れ!』を思わせる作画で、上映時間も3時間近くあるので、これがワーストになるなんてどういうことか?と思っていたのですが、納得。衝撃の作品でありました。

『ペインテッド・バード』あらすじ


東欧のどこか。家を失った少年はひとり辺境の地を歩き始める。それは想像を絶する艱難辛苦の旅の始まりだった。過酷過ぎる状況をサバイブする少年の受難を鮮烈なタッチで描き、ヴェネチア映画祭コンペ入りを果たした。
※東京国際映画祭

ジャージ・コジンスキーの自伝的小説『異端の鳥』映画化

本作はジャージ・コジンスキーが第二次世界大戦中ホロコーストから逃れる過程で、口がきけなくなってしまう様子を投影させた同名の自伝的小説の映画化だ。日本でも『異端の鳥』として角川書店から、また松籟社からも出版されている。そんな本作を映画化したヴァーツラフ・マルホウはどんな人だろうか?彼はエミール・クストリッツァを輩出しているプラハにある映画学校FAMU(Film and TV School of the Academy of Performing Arts in Prague)を卒業後、Barrandov Film Studioで働き始め、制作アシスタントからCEOにまで登り詰めます。1997年、彼は映画、演劇、美術の会社シルバースクリーンを設立し、チェコの北大西洋条約機構加盟を促進する広告プロジェクトにコミットしていった。演劇やテレビシリーズを作る傍ら、彼は本作を作る準備を整えていた。作品化の権利取得に2年かかり、ユダヤ人やホロコーストの勉強に8ヶ月かけた。また、『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』や『ブリキの太鼓』の名脚本家ジャン=クロード・カリエールの「小説を改作したい場合は、それを読んでからページを開いて捨てるのだ。それからあなたの心にまだ残っているものだけを使用すること。」という言葉を信じ、30回原作を読み込み、印象的なシーンだけを映画に盛り込むこととした。3年かけて17のバージョンのシナリオを完成させ、資金調達に4年をかけた。そして少年が自然に老化していく様を描く為、撮影に2年を費やした。こうして11年かけて夢の企画『ペインテッド・バード』が完成したのです。本作はヴェネツィアの批評家には酷評されたが、サブに当たる賞UNICEF Awardを受賞し、アカデミー賞国際映画賞でもチェコ代表作品に選ばれる快挙を成し遂げた。

さて、そんな本作は、ラース・フォン・トリアーもドン引きするような代物であった。冒頭、少年がフェレットを持って駆け抜けていく。しかし、彼は悪ガキに取り囲まれて捕まってしまう。彼の目の前でフェレットが無残に焼き殺されるところから物語は始まります。そしてこの嫌な予感は的中する。なんということでしょう。3時間ひたすらに『サタンタンゴ』における猫虐待シーンさながらの強烈な暴力が、観客を寝かすまいと殴りつけてくるのです。

老婆は炎上し、眼球は抉り取られ(ギャグとして演出されている凶悪さ!)、女子ども関係なしに逃げ惑うユダヤ人は射殺される。そのどれもが一切重複しない。ひたすらに殺戮の手数を重ねていくのです。こんなのを魅せられたら不安になってきます。ラース・フォン・トリアー以上に。物語ることを諦めて、暴力だけを追い求めているのだから。

だからこそ、ヴェネツィアでオリヴィエ・アサイヤスやアトム・エゴヤンを抑えて堂々のワースト1に輝いたのも納得できる。本作は、家を失った少年が、ナチスの恐怖、村社会の強烈なイジメに耐えながら悪魔になっていく様を描いているのですが、少年の心が壊れていく過程が見えてこない。突然、銃をなんの躊躇もなくカッコよくぶっ放すところから演出の弱さが見えてくる。また、肝心な殺戮シーンも、例えば、スコープから銃殺する場面では明らかに照準が合っていないのに、人が死んでいたりするミスショットがあったりする。そして、少年はトラウマから口が利けなくなる設定なのに、割と喋っていたりする。11年かけて執念で殺戮の美学を追い求めた結果、物語をどこかに置いてきてしまったようだ。

ただ、このマイナスベクトルに振り切っている作風の欠陥は不思議なことに、だんだんと好感に変わっていく。むしろ、その粗さこそが、ホロコーストの混沌全体を象徴しているように見えるのだ。通常、物語の粗さを、作品のテーマとして隠れ蓑に使うことは卑怯だと感じている。しかしながら、こうも殺戮の美学を魅せられると、たまにはこういった強烈な暴力もいいのかな?と思ってしまう。というわけで本作の評価は絶対値付きの80点としよう。

どうやら日本配給が決まったようなので、来年公開されると思われます。多分R-18になると思います。

決してカップルで観ないでください。

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