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【『若おかみは小学生!』絶賛記念】『たまこラブストーリー』から観る、吉田玲子の脚本術

【『若おかみは小学生!』絶賛記念】『たまこラブストーリー』から観る、吉田玲子の脚本術

たまこラブストーリー(2014)


監督:山田尚子
出演:洲崎綾、日高里菜、田丸篤志etc

評価:80点

今年の日本映画界は《口コミ》の年だった。『バーフバリ 王の凱旋』、『グレイテスト・ショーマン』に始まり『カメラを止めるな!』『SEARCH/サーチ』『ボヘミアン・ラプソディ』とSNSの口コミのお陰で、普段映画を観ないような人も映画館に足を運び社会現象となるケースが多かった。
そんな作品の一つに『若おかみは小学生!』という作品がある。この作品は令丈ヒロ子の児童小説シリーズの映画化。アニメを放映した後にジブリ出身アニメ監督、高坂希太郎の手で映画化された。明らかに子供向けのヴィジュアル、そして恥ずかしくなるようなタイトル故、公開時は全く動員数が伸びなかった。ブンブンが公開初週に観に行った時も観客は10名程度だった。しかし、あまりの無駄のない脚本と絵の強さから、ブンブンを初め、数々の映画ファンがSNSで絶賛し、そのお陰で拡大公開が決まり、ついには地球外生命体からも愛され大成功を収めた。そんな『若おかみは小学生!』の脚本を手がけたのは、吉田玲子。知る人ぞ知る鬼才だ。
既に、今年『リズと青い鳥』、『劇場版 のんのんびより ばけーしょん』の脚本も務めており、どちらもアニメファンだけでなく普段アニメを観ないような映画ファンにも賞賛されている。そんな吉田玲子の脚本の魅力に迫るべく、今回『たまこラブストーリー』を観てみた。

『たまこラブストーリー』あらすじ

小さな商店街にある餅屋《たまや》の娘・北白川たまこは常にもちのことばかり考えている。そんな彼女も高校3年生。周りは、卒業後の進路について考える中、彼女は餅屋を継ぐことを考え、何気なく暮らしていた。そんな彼女には幼馴染がいる。《たまや》の向かいに住む大路もち蔵だ。彼は、映像の勉強をする為に卒業後は東京に行こうと考えている。そして《たまこ》のことが好きな大路もち蔵はなんとかして、彼女に想いを伝えようとする。そして意を決して、川のほとりで告白するのだが…

餅屋恋情譚

今アニメ界最強のコンビ山田尚子×吉田玲子。ブンブンは『映画 けいおん!』の時代から追っていたが、肝心な代表作『たまこラブストーリー』を観ていなかったので今回鑑賞したのだが、またまた超絶技巧に打ちのめされた。山田尚子と吉田玲子は、既存のコンテンツを、マニア、NOTマニア双方が観ても楽しめる絶妙なバランスで再構築するのに長けている。本作も例に漏れず、アニメシリーズ『たまこまーけっと』の続編だ。

ブンブンは、アニメシリーズやドラマは苦手なのでまず観ない。漫画も滅多に読まない。故に『たまこまーけっと』とはファーストコンタクトだ。

いきなり、デラ・モチマッヅィという謎の鳥が「もち!」と叫びながら《おっぱい餅》をつくるもんだから、「ちょっと何言ってるのかわからない」サンドウィッチマン富澤たけし状態だ。あまりの超常現象、ブンブンの脳を右から左へするする抜けていき、ゼロカロリー(余談だが、伊達みきおのゼロカロリー理論に当てはめると、餅は白いからゼロカロリーである)。全く映画を観た気がしません。これはアウトか??と思うとようやく本編が始まり落ち着きを取り戻す。ファンサービスは先に処理したようだ。

ここからは素晴らしい人情恋歌が幕を開ける。餅屋の幼馴染、《たまこ》と《もち蔵》は進路を決める時期にいた。実家餅屋を継ぐ《たまこ》に対し、上京して映像の勉強をしたい《もち蔵》は、彼女に卒業前、この地を去る前に《好きだ!》と想いを伝えたくてドギマギしている。周りは岡目八目、そんなのは分かっていて、進展を心待ちにしている。そして、いよいよ《もち蔵》は《たまこ》に告白するのだが、幼馴染の関係が一気にメルトダウンし、互いに感情の処理に困る。

何故、吉田玲子の脚本は映画ファンにも受け入れられるのか?

さて、何故、吉田玲子の脚本は映画ファンにも受け入れられるのか?通常であれば、原作ファンの為に作られたアニメ映画を、全く知らぬ映画ファン。それもベルイマンがうんたらとか言っているようなシネフィルは観ないであろう。例え観たとしても色物として消費されて終わってしまうであろう。しかしながら、ブンブンだけでなく多くの映画ファン、シネフィルからも受け入れられた。例え、『劇場版 のんのんびより ばけーしょん』のようなコテコテの萌えアニメであっても。

吉田玲子(山田尚子監督も同様だが)は、原作云々以前にしっかり《人間》を描いているのが影響しているのであろう。

『たまこラブストーリー』を例に取る。互いに好きなんだけれども思春期ならではの恥が邪魔して変な方向へ行ってしまう。それをアニメならではのユニークなギミックで強調する。《たまこ》は、自分からの逃避としてバトン部の活動にのめり込む。バトン部は部活の中ではマイナーな方。それこそ多くの学校には存在しない部活だ。実写映画の場合、物語のメインテーマと逸れた部分に位置する肉付けとして《バトン部》という要素を入れてしまうと違和感が生まれる。しかしながら、アニメでは虚構性が強い為、違和感なく《バトン部》が世界観に溶け込む。そして、虚構の世界に没入しがちなアニメの世界に観客は入り込み、《バトン部》に対して興味を抱く。その絶頂に至った時に、この要素が物語として強い意味合いを持つ。《たまこ》は、もちのことしか頭にない女子高生。バトンをしている時ですら、脳裏にはもちが過る。それが、《もち蔵》からの告白によって、自分の心が処理できなくなる。もちのことを考えると、《もち蔵》のことが頭に浮かぶ。それからの逃避として、バトンの練習に没頭するのだ。これが、バスケットボールとか陸上だったらどうだろう?我々の身の回りにあるメジャーなスポーツ。実写映画でも割と目にする光景故、《たまこ》の心情の揺らぎが強調されなかったことであろう。もちろん、バトン部は恐らく原作にある設定だけに、吉田玲子の功績ではないのだが、それでも《バトン部》という要素を映画的表現として最大限魅力を引き出したのは評価できる。

また、《もち蔵》は届かぬ気持ちを、届かぬ糸電話に象徴させる。《もち蔵》は、《たまこ》に定期的に糸電話を投げる。しかし、いつも《たまこ》はそれを受け取れないでいる。《もち蔵》の恋が伝わらないメタファーになっているのは言うまでもない。ここで面白いのは、《たまこ》が《もち蔵》からの糸電話を掴んだと思わせる場面があるのだ。しかし、それは妹・北白川あんこで、《もち蔵》も観客も心が折れそうになります。そんな糸電話、投げても投げても届かぬ糸電話を、《たまこ》が手にする時観客は《もち蔵》共々泣けてくるでしょう。糸電話といえば実写映画『帝一の國』でも面白い使われ方していたが、やはり非現実的でロマンティックでユーモラスな糸電話はアニメで映える演出と言える。

ってことで、吉田玲子作品及び、山田尚子作品は観ず嫌いせず今後も積極的に観ていきたいと思いました。

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