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【東京フィルメックス】『アルファ 殺しの権利』メンドーサ監督作『どん底』の裏返し

【東京フィルメックス】『アルファ 殺しの権利』メンドーサ監督作『どん底』の裏返し

アルファ 殺しの権利(2018)
ALPHA THE RIGHT TO KILL


監督:ブリランテ・メンドーサ
出演:アレーン・ディゾン、イライジャ・フィラモア、バロン・ゲイスラーetc

評価:40点

フィリピン映画の鬼才ブリランテ・メンドーサ監督が、フィリピン麻薬戦争に迫った新作を製作した。その名も『アルファ 殺しの権利』だ。ロドリゴ・ドゥテルテ大統領が、麻薬撲滅の為に非人道な殺人・暴力を繰り返す超法規的殺人指令問題が国際的に非難されている。その実態を、フィリピン人監督であるメンドーサが、暴いた作品。果たして…

『アルファ 殺しの権利』あらすじ

フィリピンのとある警察署は、麻薬撲滅作戦を敢行した。内偵者を送り込み、麻薬ディーラーのトップを一網打尽にするというものだ。内偵者をコントロールする警官は、その作戦に紛れて金を稼ごうとしていた。逃げる、麻薬ディーラーから麻薬を奪い、内偵者に捌かせる。そのアガリを叩くというものだった。華麗に、ディーラーから麻薬を奪い、捌いたかに思えたのだが…

『どん底』の裏返し

本作は、ブリランテ・メンドーサ監督の初期作品『どん底』の裏返しに当たる作品だ。『どん底』では、フィリピンスラム街に住む人々が警察官の暴力に怯えながら暮らす様子が描かれていた。今回は、それを警察官の目線で描いている。本作の見所は、序盤のアクションシーンにあります。『どん底』の頃から予算が大幅に増えたのであろう、いつも通り観る者の神経を逆撫でする酷い音響と撮影こそ健在だが、アクションシーンは断然見やすくなっている。麻薬ディーラーの元に内偵者を送り込み、警察官が急襲するまでのシークエンスが、非常に面白い。心の鼓動の高まりを象徴する、ドォーン、ドォーンというサウンド、ジリジリと敵に迫る緊張感、そして放たれる無数の銃弾。この畳み掛けはメンドーサ最高傑作といっても過言ではないでしょう。ハリウッドアクション映画ばりの、激しく、そしてしっかりアクションの一つ一つ丁寧に魅せていく様は圧巻であった。

しかし、面白かったのはそこまでだ。そこからは尻つぼみとなってしまう。警官が敵から奪った麻薬を内偵者に捌かせるのだが、内偵者のヘマでドンドン事態が悪化していく様子が描かれる。それ自体は非常に面白い話題だ。内偵者が警官や麻薬ディーラーに怯えながらも、家族の為にコソコソ動く様のスリルは見応えあったし、警察官が上司に自分の悪事がバレそうになる時のドキドキ感は堪らない。しかしながら、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の横暴な政治と麻薬戦争の関係を描いた作品としてあまりに短絡的すぎる気がした。そもそも、警察官が何故麻薬の転売に手を染めなければいけないのかが全く説明がない。いくら「金のため」とはいえ、そこまでしないといけない動機が見えてこなければ、ただの汚職警官というアイコンに過ぎないのだ。実際にフィリピンでは、警察官の給料が少なく、汚職をして金を稼がないと生活が成り立たない。だからこそ、ああいうことが起きる。最低限の描写すら切ってしまうと、単に内偵者と警察官が麻薬を捌くだけの話になってしまう。そして、着地点も唐突にやってくるのだが、これがアート映画らしい問題提起としての強制終了というよりかは、投げやりという感じが強い。確かに現実には、あのクライマックスは起こり得るだろうけど、これは映画だ。しっかり収めるところは収めて欲しいと感じた。

結局のところ、メンドーサ監督は、外国人である我々が想像しうる範囲でしかフィリピン麻薬戦争を描けなかった。これは結構期待はずれでした。

メンドーサ監督作レビュー

【アテネフランセ特集】『どん底(2008)』メンドーサの荒ぶるマニラ世界
【フィリピン映画】「キナタイ マニラ・アンダーグラウンド」は「冷たい熱帯魚」よりもキツい人体解体に驚愕

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