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【自主ベルイマン生誕100周年映画祭】『サラバンド』遺作にして野心作

【自主ベルイマン生誕100周年映画祭】『サラバンド』遺作にして野心作

サラバンド(2003)
SARABAND(2003)


監督:イングマール・ベルイマン
出演:リヴ・ウルマン、エルランド・ヨセフソンetc

評価:70点

今、YEBISU GARDEN CINEMAではベルイマン生誕100周年映画祭が開催されている。これはスウェーデンアート映画の巨匠イングマール・ベルイマンの特集上映である。ベルイマンと聞くと難解なイメージから敬遠されがちだが、『ファイト・クラブ』を始め、『エクソシスト』や『マルホランド・ドライブ』、『鮮血の美学』等様々な映画に影響を与えているので、我々は知らず知らずのうちにベルイマンのカケラを目にしていたりします。それこそ、先日公開された細田守最新作『未来のミライ』では、明らかに『野いちご』からの引用がされています。
『第七の封印』に関しては、MAN WITH A MISSION”Seven Deadly Sins”のMVでオマージュを捧げられていたりします。
↑ブンブンもスウェーデンに旅行に行った際は、『第七の封印』ごっこして遊びましたw

さて、ベルイマンと言えば最近までは『野いちご』『第七の封印』『処女の泉』ぐらいしか観られなかったのだが、『仮面/ペルソナ』『魔術師』『夏の夜は三たび微笑む』と大分DVD化され、TSUTAYAでも入手できるようになってきた。今回の映画祭ラインナップもかなり頑張っている。しかし、それでも50本近くあるベルイマンのフィルモグラフィーのごく一部しか、それもTSUTAYAで借りられるような作品が多くを占め、『リハーサルの後で』や『不良少女モニカ』『ダニエル』などといった作品を上映してくれないことに不満を抱いている。ってわけで、ブンブンこの特集上映でやらない作品をAmazonでベルイマンの遺作『サラバンド』を購入し、自主ベルイマン生誕100周年映画祭を開いたのであった。

『サラバンド』あらすじ

『ある結婚の風景』の続編にあたる作品。かつての夫婦マリアンとヨハンは離婚後、30年ぶりに再会する。そこで明らかになるのは、ヨハンの息子ヘンリックの娘が、高圧的な父(ヘンリック)に対して憎しみを抱いているということだった。その憎しみは、バッハの《無伴奏チェロ組曲第5番の第4曲》、サラバンドにぶつけられていく…

ベルイマン版『セールスマンの死』

イングマール・ベルイマンは姿形を変えて、高圧的な父に対する憎しみを映像化していった。そして、年を経るごとに、作風が演劇寄りになっていき、映画的空間の奥行きがドンドン希薄になっていった。そして、遺作『サラバンド』は、ベルイマンと父との確執を最も純度高く描いた作品である。まるで舞台のような構図、そして会話だけで綴られる気持ちと気持ちの対立。シンプルな工芸品にベルイマンは最後の力を振り絞って、魂を吹き込んだ。

本作は、沢山の写真を散りばめた机にフォーカスが当てられ、次に妻が自分語りを始めるというユニークなショットから始まる。妻は第四の壁を破壊し、観客に、元夫の家を訪ねた時の心情について語りに語るのだ。妻が30年ぶりの再会にドキドキしていることを、ベルイマンはユニークな台詞回しで表現する。
夫に話しかけようとする直前に「1分後、彼に話しかけます。今33秒…ほら47秒…」と観客に向かって秒読みを始めるのだ。何故か、33秒とか47秒といった中途半端な時間を強調して語る。そこから、彼女の心の不安定さが読み取れる。こんな脚本テクニックがあったのかと背筋が震えます。

そして、物語は始まる。これはアーサー・ミラーの戯曲『セールスマンの死』を意識したものであった。ヨハンの息子ヘンリックは娘を愛し立派なソリストとして育てようとするのだが、過度な期待に娘は押しつぶされていく。そして、彼女は父を裏切り、ソリストの道を進まずオーケストラの道へと進む。Solo=孤独を捨てることで、父にSolo=孤独の地獄を与える復讐を試みたのだ。しかし、父の一言「死ぬ前に君のサラバンドを聴かせて欲しい」というリクエストに、応え分断され、壊れた親子の愛は一瞬だけ繋がる。ベルイマン版『セールスマンの死』は本家以上に、苦い家族のドラマを紡ぎ出していたのだ。

神々しい光が包む空間、白の中に複雑に蠢く愛憎、それを章が進むごとにサラバンドが盛り上げる。ベルイマンの純度の高いこの遺言、観終わった後から観客の脳裏で物語の再構成が始まり完成していく、非常に面白い作品でした。

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