【キューバ映画特集】『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』キューバ風俗史の深き洞察

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス(2017)
BUENA VISTA SOCIAL CLUB ADIOS(2017)

監督:ルーシー・ウォーカー
出演者:オマーラ・ポルトゥオンド、
マヌエル・“エル・グアヒーロ”・ミラバールバル、
バリート・トーレス、エリアデス・オチョア、
イブライム・フェレール、ヴィム・ヴェンダースetc

評価:75点

BVSCと聞くと、バットマンとスーパーマンの仁義なき闘いの新シリーズかと思う。しかし、この略称はキューバの伝説的バンド『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』のことを示している。1997年にライ・クーダーがプロデュースし一躍有名になった。そして、彼らのライブをヴィム・ヴェンダースが撮り神格化された。あれから18年、BVSCはどうなったのか?2015年、アメリカとキューバが国交回復した際にオバマ大統領が彼らを招聘したが、あの舞台裏はどうなっているのか?

本作はそこメインで語られているドキュメンタリーだと思ったら違った。まさしく、今何故本作を撮るのか、あの傑作に続編が必要だった!ということを教えてくれる傑作ドキュメンタリーであった。今日は、それについて語っていく。

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』概要

キューバに存在した音楽クラブ《ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ》。引退した老音楽家たちのセッションの場が、ライ・クーダーに見出され一躍有名に。再び輝きを魅せた老音楽家たちは、今どうしているのだろうか?音楽クラブ《ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ》無き後、彼らの音楽は消滅してしまったのだろうか?歴史に忘れ去られてしまったのだろうか?『カウントダウンZERO』の女性ドキュメンタリー作家ルーシー・ウォーカーは、カメラを回し、彼らの軌跡を辿った…

今だから明らかにされるキューバ風俗史

ヴィム・ヴェンダース版

が、当時未知の世界だったキューバの様子を撮ったことに価値を見出した作品であったが、今回はアメリカとの国交が回復し、気軽にキューバへ行けるようになった今だからこそ明かされるキューバと音楽、風俗との関係を紐解くものだった。

オープニングで「観客はキューバの何を知っているのだろうか?」という問題提起がなされる。そして、ウィキペディアレベルの軽いキューバ史が語られる。1492年にクリストファー・コロンブスに発見され、先住民はスペインに侵略される。そして、先住民はほとんど虐殺され、黒人奴隷の保管先として使われるようになる。1868年にカルロス・マヌエル・デ・セスペデスを主導として、スペインからの独立を目指した十年戦争が行われる。キューバがスペインに勝ち、独立かと思いきや、今度はアメリカの植民地となってしまう…「貴方は、キューバの歴史の常識ですら知らないでしょ?音楽をファッションとして消費していていいの?」と煽ってきます。

そして前半30分以上かけて、キューバ史と風俗の関係が明らかにされていく。1930年代のキューバ国内における黒人差別事情。1940年代まで、コンガが禁じられていた歴史。バティスタ軍事政権、アメリカの腐敗がキューバ国内を蝕み、貧困に苦しむ人々の唯一の娯楽としての音楽。カストロも革命時、音楽で人々を鼓舞させていた話など、軽くネットを調べただけでは出てこない本当のキューバ史が解き明かされるのだ。

と同時に、前作でキューバ人から漂う負のオーラ、話の断片から滲み出る辛さ哀しさの正体が分かる。

これは、傑作ドキュメンタリーの続編としてナイスな切り口だ。強烈に、続編を作る意味を観客に叩きつけてくる。そして、これには納得せざる得ない。

BVSCの活動も濃密に!

もちろん、肝心なBVSCにもカメラは迫る。”Chan Chan”,”Dos gardenias”に”El cuarto de Tula”といった名曲をバックに、前作の舞台裏や老人になってもイケイケドンドンなメンバーの肖像、そして《死》が映し出される。

前作では、リハーサルの段階で仲間同士《音楽性の違い》から対立してしまう。「俺は70年音楽に触れているから俺が正しい。」「いや、俺は90年音楽と関わっている!」といった激しい口論に、ヴィム・ヴェンダースが困惑しているところが映し出される。あんな、ふらっとキューバを『世界ふれあい街歩き』のごとく彷徨っているだけの映画に、そんな緊迫があったのかと驚かされる。

また、元々BVSCメンバーはジャズのように即興中心のライブを得意としていたことも描かれている。バーで目の前のお客さんをいじる。それも、ラップやジャズとは違い、ゆっくりとしたテンポで、曲として成立させていくのだ。

さらに、今やほとんどのメンバーが亡くなったが、新しいメンバーを迎え、BVSCの魂がどんどん受け継がれていることも本作で描かれる。ちょっと、流れ作業的にメンバー一人一人の追悼シーンを入れているのが玉に瑕だが、彼らの魅力、キューバの魂を背負った音楽に対する愛を感じました。

来月のキューバ旅行に対するワクワクが高まる作品でした。

余談

ところで、本作を観ると、キューバは音楽の国だということが分かる。しかしながら、キューバ革命の重要人物チェ・ゲバラは音痴だった。あまりの音痴で、歌っている曲が別の曲に聴こえてしまう程の超絶音痴だったそうです。

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