【後半ネタバレあり】『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』は教職課程必修科目だ!

賛否が分かれる(?)終盤の展開

本作は、Filmarksで他の感想を読むと、意外にも否の意見が多かった。無論、こんな地獄のような胸糞悪い映画。タチが悪いことに、美しい陽光の中でどす黒い物語を展開するので気分悪くする人がいてもおかしくない。映画を見慣れていない人なら発狂するレベルでしょう。特に、クライマックスがかなりキツイので、苦手な人は本作に0点をつけたくなるであろう。しかし、ブンブンはあのクライマックスこそ最大の魅力だと感じた。ってわけで2つのポイントに絞って考察していく。

ポイント1:文化祭ライブシーンについて

通常、音楽キラキラ青春もののラストはライブシーンだ。それも、胸熱で、高揚感があるものだ。しかし、本作のクライマックスライブシーンは、観客が最も観たくないシチュエーションが待ち受けていた。二学期になり、完全にハブられた菊地が居場所を求め、《しのかよ》に無理矢理加入したことで調和が乱れ、解散してしまう。加代は志乃が文化祭までに戻ってくることを祈るのだが、それは叶わず、彼女は独りで自作の曲《魔法》を弾き語りする。当然ながら、歌は下手のまま。多くの生徒の心が騒つく、嘲笑が会場を包む。加代はボロボロに傷つきながらも、志乃に魔法を送り届けるのだ。

そして、彼女が歌い終わると、志乃が泣きながら現れ、全身全霊、一滴の汗すら振り絞って、全ての想いを語る。だが、決して橋で披露した美しい歌を生徒に聴かせることなく終わってしまうのだ。

青春キラキラもののアンチテーゼとして、また吃音症と社会との関係は容易く解決できないというメッセージがこのクライマックスで観客に叩きつけられる。現実は生易しいものではない。ましてや文化祭のライブは、文化祭の華。クラスの人気者が、イケイケな奴が輝く場所だ。そんな場所で、陰日向にいる奴が出たって、余程のカリスマ性がなければ、嘲笑されて終わってしまう。当事者は成長しても、社会は成長しないのだ。それを、空中分解したバンドの哀しき公演で体現する。

また、志乃を吃音症をただ擁護する話に着地させない為に、問題から逃げた志乃に対する罰として、ステージで歌わせない、美しい曲を生徒に聴かせないという制裁を物語は与えた。こここそがブンブンの一番評価した部分。『映画 聲の形』でも描かれていた、当事者だって罪を犯す、《障がい》という防御壁から人を傷つけるということをしっかり描いているのだ。

ポイント2:菊地の扱い

さて、志乃の罪についてもう少し話すとしよう。実は、物語序盤でも、加代の音痴を笑ってしまい彼女を傷つけるという描写があったのだが(観客も笑うようにコメディとして描いているとこが強烈だ。後にこのシーンで笑った人は全力で謝罪したくなるシステムとなっている。)、志乃はもっと重大な罪を犯している。それは、菊地に対し、一切の赦しを与えなかったことだ。

クラスからハブられ、二学期にいよいよ居場所がなくなってしまった菊地。彼は孤独に苦しみ、救いを求め、《しのかよ》に言いよる。加代は加入を認めるが、志乃は頑固として彼を許さない。今まで自分を傷つけてきたのだから。菊地は、どうにかして彼女から赦しをもらおうとする。まるで『映画 聲の形』の石田将也のように。ただ、『映画 聲の形』とは違い、彼女は最後まで彼を許さないのだ。そして《しのかよ》は空中分解したまま終わり、菊地の問題は一切解決されず終わってしまう。

『映画 聲の形』では、全編通して障がい者いじめに対してどこまで贖罪できるのかを描いた作品故、きちんと罪を浄化していく展開となっている。しかし本作は、物語の大半を音楽青春ものに捧げている為、『映画 聲の形』のような哲学を盛り込むスペースが少ない。原作こそ読んでいないので分からないが、志乃が菊地を突き放したまま終わらせることで、「被差別者もまた差別で人を傷つける」という強烈かつ一番重要なメッセージを観客に突き刺していると言える。

ブンブンもこの菊地突き放しエンディングを観て、思い当たる節がいくつかあるだけに、背筋が凍りついた。そして贖罪したい気持ちになりました。

『ワンダー 君は太陽』のいじめっ子描写以上に、よく描けていました。

最後に…

ヒナタカさんがオススメしていなければ、スルーしていたことでしょう。なんたって7月は、必見クラシックレア作のオンパレードで、他の映画を観る余裕があまりないのだから(某恐竜映画はあっさりパスしましたw)。でも、観て本当に良かった。自分の過去と重なる部分が多く、涙が出てきました。これは、『映画 聲の形』のように、某偽善的チャリティ番組の裏でNHKは放送してほしい。吃音症だけならず、障がいと学校の関係がいかに複雑で厄介か、障がいを「かわいそう」の一言で片付けてしまうことで本質が見えなくなってしまう危うさを描いた傑作であった。漫画は普段あまり読まないのですが、押見修造の作品を読んでみたくなりました。


↑今一度、吃音症について調べたくなりました。

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