ジャネット※旧邦題:ジャネット、ジャンヌ・ダルクの幼年期(2017)
Jeannette, l’enfance de Jeanne d’Arc(2017)
監督:ブリュノ・デュモン
出演:リーズ・ルプラ・プリュドム、ジャンヌ・ヴォワザンetc
もくじ
評価:採点不能
ブリュノ・デュモン、日本ではシュール過ぎるためか全く日本公開しない映画監督だ。ブリュノ・デュモン受け入れ所ことアンスティチュフランセですら前作の『MA LOUTE
』上映を諦めた程。
しかし、そんなアンスティチュフランセは今回カイエ・デュ・シネマ週間で新作を上映してくれた。タイトルは『ジャネット、ジャンヌ・ダルクの幼年期(Jeannette, l’enfance de Jeanne d’Arc)』だ。
詩人シャルル・ペギーの『ジャンヌ・ダルク』『ジャンヌ・ダルクの愛の秘義』を基にしたミュージカルでカイエ・デュ・シネマベストテン2017
において2位の座を仕留めた作品。
上映前、カイエ・デュ・シネマの人の解説があった。
「この映画を分析しようと思わないで下さい」
→うん、分かる
「この映画はヘヴィメタルのミュージカルです(厳密にはIgorrr監修なのでブレイクコアのミュージカルと言った方が正しい)」
→ん?
「ブリュノ・デュモンは原作で理解できない部分は役者にヘドバンさせました」
→ちょっと何言っているのか分からない
「ラップシーンもあるよ☆」
→え、、、
「シルクドソレイユのスタッフに振り付け考えてもらいました」
→常軌を逸している
ゲストの語ること全てが、常軌を逸していて一抹の不安を抱いた。しかし、それは1ミリも間違ってなかった。そして、本作は当日観た人の評判は芳しくないものの、ブンブンは脳内に長岡花火が打ち上がる程大傑作であった。そして、同時に点数化してはいけない作品であった。今日はそんなブリュノ・デュモンのトンデモ映画について語っていきます。
『ジャネット、ジャンヌ・ダルクの幼年期』あらすじ
時は1425年、フランスのドンレミ村。《ジャンヌ・ダルク》と名乗る前の8歳の少女ジャネットは、イギリスとフランスとの戦争に強い怒りを覚えていた。親や尼僧は宗教片手にジャネットをなだめようとする。しかし、そこから見える偽善にジャネットは怒り、神に想いをぶつける…EXILEにオタ芸に、ラップなんなんだこれは?
冒頭20分。荒野でジャンヌ・ダルクが熱唱するシーンが展開される。台詞部分も韻を踏んでおり、
J’ai faim(おなかすいた).
J’ai du pain(パンがあるわ).
といった言葉遊びが堪能できる。韻が紡げないようなフレーズは、繰り返し言うことでビートを刻ませる。
ここまでは普通だ。想定内だ。
…もう一度言う…普通だ…
しかし、突如《ソレ》はやってきた!
そして出ましたヘドバン!もうこの時点で私の脳内に長岡花火が打ち上がりました。こんなスンゲー映画体験『ホーリー・モーターズ』をパリで観た時以来だ。
思春期の心理を投影した傑作
では、本作は完全出オチな映画なのか?
これがよくよく観ると話もちゃんとしているではありませんか!
正義感の塊である若きジャンヌ・ダルクは、親や尼僧の宗教観が偽善を隠す蓑になっていることに猜疑心を抱いている。そして、歌バトルで闘うものの、スルリと回避されてしまう。森で聖ミカエル、聖カタリナ、聖マルガリタに救いを求めるが、神は答えを出してくれない。そんな彼女が数年悩みに悩み決断する。
これは子どもならではの単純且つ極端な考えと向き合い、自分の答えを導く映画なのだ。
大人になると、矛盾だらけで欺瞞に満ちた世界に自分の哲学を作り出し、上手く線引きができるようになる。しかし、思春期の子どもにはそれが、気持ち悪く見え、怒りが込み上げてくる。その怒りという心理的状態を、ブレイクコアと結びつける。時代は1425年。そんな時代にエレクトロなサウンドなんかありゃしない。しかしながら、映画は自由だ。なんでも出来る。常識を破壊しジャンヌ・ダルクとブレイクコアを付き合わせる。そうすることで、観る者に強烈な違和感を与える。その違和感こそが、思春期のジャンヌ・ダルクの心情の真髄へ引きずりこむトリガーとなっていたのだ。
また、怒れる少女の暴走とそれを抑圧する大人の関係を、ブリッジしながら荒れ狂う描写という露骨な『エクソシスト』オマージュで観客にヒントを与えている。そう、これは『エクソシスト』の逆で、少女の目線から大人を捉えた作品なのだ。
事前予習?そんなものは要りません
こう聞くと、スノッブなシネフィル向けの高尚難解な映画に見えるでしょう。
しかしこの『ジャネット、ジャンヌ・ダルクの幼年期』は全編爆笑必至、ツッコミどころの塊だ。ジャンヌ・ダルクの数年後として魅せられるのは、明らかに10年後の姿にしか見えない凛々しく逞しいジャンヌ・ダルク。ブレイクコアの暴走に、突如始まるエクソシストのモノマネ。舞台はほとんど荒野。突如オタ芸を始めるラッパーetc
真面目に解釈しようとすると、匙を投げたくなるようなシュールさだ。だが、一度Don’t Think,Feel!と全てを受け入れたら、本作は貴方を最高峰の悦楽の世界へと導くであろう。
ここまで吹っ切れていると、もはや大好きだ。これはベストテンに入れたい。朝一で並んだ甲斐がありました。
日本公開は恐らくしないので、観る機会があったら、臆することなく飛び込んで欲しい。今までに5000本以上映画を観た人ですら、驚愕の未知との遭遇がそこにあることでしょう。
ブリュノ・デュモン感想記事
・“Ç”【カンヌ映画祭特集】ブルーノ・デュモンの異色ミステリー「プティ・カンカン(前編)」
・“Ç”【カンヌ映画祭特集】ちゃんと推理します「プティ・カンカン(後編)」
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