【ネタバレ解説】『触手』は悦楽に溺れたメキシコ社会を反映した難解映画だ!

触手(2016)
英題:THE UNTAMED
原題:La region salvaje

監督:アマト・エスカランテ
出演:ケニー・ジョンストン、
Simone Bucio、Fernando Corona etc

評価:40点

第73回ヴェネツィア国際映画祭でアンドレイ・コンチャロフスキーの『パラダイス』と共に銀獅子賞を受賞した変態映画『触手』。
なんとこれで監督のアマト・エスカランテは三大映画祭監督賞制覇に王手をかけた(『エリ』でカンヌ国際映画祭監督賞受賞済み)。そんな作品がヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の未体験ゾーンの映画たち2018にで上映されるときいたので観てきました。

『触手』というインパクト大なタイトルと男性器チックな触手に厭らしく襲われる様子をフィーチャーした予告編に触発され、劇場は満員近くの大盛況だったが、全観客が思ったであろうコレジャナイ感満載の作品であった。

なんたって監督のアマト・エスカランテは、メキシコのワケワカメ監督の一人カルロス・レイガダスの弟子だ。

その年のヴェネツィア国際映画祭の審査員も、ロレンソ・ビガス(『彼方から』)にジョシュア・オッペンハイマー(『アクト・オブ・キリング』『ルック・オブ・サイレンス』)、サム・メンデス(『アメリカン・ビューティー』『ロード・トゥ・パーディション』)と鬼才率が高かった(金獅子賞も『立ち去った女』だしね)ことを考えると納得がいく。

ってことで、今日は『触手』とはなんだったのか?についてネタバレありで語っていきます。

『触手』あらすじ

DVに悩まされるアレハンドラは精神的に不安定になりながらも、アレルギー持ちの子ども2人を育てている。ある日、弟にベロニカという女を紹介される。彼女に惹かれるようにして森の奥にある小屋に行くと、、、そこには博士が育成している快楽を与える触手モンスターがいたのだった!

触手目当てで観てはいけない

なので、『ローグワン』のVFXスタッフが手がけた触手目当ての方は観ない方が身の為だ。そもそも、本作の原題は『La region salvaje(けだもの地域)』。この《けだもの》は触手モンスターだけを示している訳ではない。劇中登場する人々、動物全てを示している。不倫、同性同士の交わり、DV、酒と汚職にまみれの社会、そこにはメキシコ社会の混沌が滲み出ている。

《触手》=《麻薬》

人々は快楽を求め、快楽によって身が滅ぼされていく。メキシコ社会の知識に乏しいのでなんとも言えないが、ある種あの《触手》は麻薬のメタファーなのではと感じた。

快楽を与える《触手》。人々から快楽を吸い取り骨抜きにしてしまう《触手》。そして《触手》の飼い主は、獲物を家に導き《触手》のエサにする。《触手》の飼い主は、科学者と自称する。これって《麻薬》に置き換えると腑に落ちる。

快楽は本能、本能は理性を失う

触手の存在について、小屋の科学者が「人間、動物古来の姿」として力説している場面がある。そして、人間が悦楽に溺れる姿だけでなく、大量の動物が交尾に明け暮れる様子をわざわざ魅せる。触手により理性を失うまで快楽を失う様子は、快楽でもって人間性を失い野生に戻る様子を表しているのではないだろうか?

《行為》はヒエラルキーを示す

本作は様々な行為が描かれる。男女の弄り、同性同士のアクション、動物同士の交尾。これは単なる興奮描写なのか?DV男の目線で捉えた際に、これはヒエラルキーを象徴しているのではと感じた。通常の行為では男性優位で物事が進む。そしてDV男は妻の弟とも行為に励む。これはDV男がヒエラルキー的に上位におり、力でもって下位の男を支配していることを示しているといえる。だからこそ、ラスト負傷したDV男を妻が小屋に連れていき、触手に襲わせるのは、今まで力で上位だった男が自分より強い存在に潰されることの象徴と言えよう。

結局『触手』とはなんだったのか?

このように考えると、一見C級SF映画にしか見えない本作はメキシコ社会が抱える問題を象徴的に描いた社会派ドラマだと言うことに気がつくでしょう。男尊女卑、社会に蔓延る麻薬という存在、人々はやる気がなく決めつけで暴力的に支配しようとする社会。そこに対しエスカランテが独自の作風で切り込んだ。だから、単に触手モンスター目当てに観に行くと痛い目を観るのだ。

海外の評判

こうも考察してみたが、正直いまいちよくわからないところも多い。そこで、海外レビューを読み漁ってみた。

IndieWire


Andrzej Żuławski would be proud of this wild new vision.
アンジェイ・ズラウスキーは、この野生の新しいビジョンを誇りに思うでしょう。

※適時補完して訳しています。訳が間違っていたらすみません。


とズラウスキーの『ポゼッション』との比較している。ただ本質に迫っていないように見えるレビューだ(汗

THE Hollywood REPORTERでは

The previous features of Escalante, a Cannes Best Director winner for Heli in 2013, were extremely realistic and often hard to watch because they were about not turning a blind eye to Mexicans’ systemic violence, subjugation and oppression. Here, most of the film is also grounded in a form of realism but what helps reveal much of Mexico’s ugly human realities is something otherworldly that promises pleasure.
2013年の『エリ』でカンヌ国際映画祭最優秀監督賞を受賞したエスカランテの以前の作品は、現実的で、多くの場合観ることが困難でした。なぜなら、彼らはメキシコの全身的な暴力、征服、抑圧に盲目であった。ここでは、ほとんどの映画は現実主義の形で描かれていますが、メキシコの醜い人間の現実の多くを明らかにする助けとなるものは、喜びを約束する他の世界です。

※適時補完して訳しています。訳が間違っていたらすみません。


という文章から始め、メキシコに蔓延る性と暴力の関係の映画であることを分析している一方、本作を映画祭に特化した映画であり、物語の本質レベルで深く観た際に甘い部分があると批評している。

またVARIETY


While shot through with pointed jabs at chauvinism and mainstream homophobia in Mexican society, “The Untamed” never quite exceeds the sum of its intriguingly opposed parts.
メキシコ社会における優越主義と主流の同性愛嫌悪を撃ち抜き続けている間、『触手』は、その興味深さの全ては性的衝動の幻想的な次元を超え続ける。

※適時補完して訳しています。訳が間違っていたらすみません。


とメキシコ社会の側面から本作を分析している。

やはり、海外のレビューを総合して考えると、メキシコ社会に蔓延る力関係をズラウスキーの『ポゼッション』を意識した作風で描いた作品だと考えることができるようだ。

でも、正直つまらない

今回このように熱く『触手』の解説記事を書いた。ただ面白い映画か?と訊かれたら「微妙」と言わざる得ない。物語は支離滅裂だし、焦らし描写しかなく辟易とした。恐らく、こんなぶっきら棒な作品になってしまったのは、触手モンスターにVFX技術をつぎ込みまくった結果、予算がなくなったからなのではないか。予算が底尽きたから、触手モンスターの出番は少なかったのではないか。

と言うわけで、個人的にメキシコ好き以外には到底オススメできない作品といえよう。

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