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【釜山国際映画祭・ネタバレ】『バーニング劇場版(BURNING)』イ・チャンドンは村上春樹の原作を『華麗なるギャツビー』と解釈した

【釜山国際映画祭・ネタバレ】『バーニング劇場版(BURNING)』イ・チャンドンは村上春樹の原作を『華麗なるギャツビー』と解釈した

【釜山国際映画祭・ネタバレ】『バーニング劇場版』イ・チャンドンは村上春樹の原作を『華麗なるギャツビー』と解釈した


本記事は、釜山国際映画祭で観たイ・チャンドン監督新作『バーニング劇場版(BURNING)』のネタバレ記事です。日本公開未定ですが、結末まで触れていますので、未見の方は読まないことオススメします。

『バーニング劇場版』あらすじ

Jong-suは作家である。韓国の片田舎からよく都心にやってくる。ある日、彼はHae-miと恋仲になる。そんな中、彼女はアフリカに行く。そして、Benという男を連れて帰ってくる…

イ・チャンドンの解釈

よく、「短編小説ほど映画化に向いている」と言われている。短編小説は、行間が広く、無限に解釈ができるからだ。また、長編小説では細部までディティールに拘っているケースがあり、原作との整合性で叩かれがちなところがある。さて、今回NHKが永い沈黙を保っていたイ・チャンドン監督に、村上春樹の『納屋を焼く』映画化の話を持ち込んだ。NHKは『ペパーミント・キャンディ』の製作に関わっており、その関係での以来であろう。かくして、イ・チャンドン×村上春樹の夢のコラボレーションが実現した。村上春樹の小説の映画化は意外とある。しかし、どれも評判は今ひとつだ。それだけ、村上春樹の作家性が凄まじく、鬼才であっても容易に映画に翻訳することが難しいことを物語っている。しかしながら、イ・チャンドン監督はこれ以上にない程、村上春樹に対しリスペクトを持って接し、さらに原作の先を魅せてくれた。恐らくハルキストも唯一許せる映画化なのではないだろうか。

イ・チャンドンは、『納屋を焼く』を『華麗なるギャツビー』だと解釈し映画化した。『納屋を焼く』の元ネタが『華麗なるギャツビー』であるという指摘は、多くの人がされており、論文にまでなっている。そもそも村上春樹自身が『華麗なるギャツビー』の翻訳を出している以上、どうしても意識せざるえない。謎のリッチマンに隠された憶測が物語に豊かさを与えるというエッセンスに満ちた小説なのだ。ただ、多くの理論が、《似ている》という表層的な部分での指摘であった。そしてこの映画版も前半2時間までは表層的になぞっているに過ぎなかった。フォークナーや『華麗なるギャツビー』という用語は出てくるが、それは記号でしかない。

しかし、これはイ・チャンドンの罠だった。小説の中だけで完結していた今までの世界をシニカルに描いていただけだったのだ。それが後半40分、思わぬ驚きでEXPANDして魅せる。Benという男が《温室を焼く》と宣言し、Jong-suは取り憑かれるように温室を見張るが、結局温室は焼かれる現場とは遭遇しない。そして、何故かHae-miが消えてしまう。そこから、Jong-suは「BenがHae-miを奪ったんだ」という妄想に取り憑かれ、彼は引っ切りなしにBenのストーカーを始める。そんな彼をBenは穢れなき笑みで迎え入れる。飄々と、彼のストーカー行為から身を眩まし、あっさりと背後を取る。そして、遂に耐えきれなくなった彼は、Benを殺し、車ごと燃やす。《温室を焼く》犯人は、Jong-suにすり替わり終わってしまうのだ。結局、Benの正体も分からぬまま…

これは『華麗なるギャツビー』になれなかったギャツビーの物語だと解釈することができる。ギャツビーは貧しい男だったが、愛する女の為に富豪にまで上り詰めた。しかし、愛する女は別の男の妻となっており、どうしようもなくなる。本作は、貧しい田舎者が愛する女を想うが、階級差の為に地を這いつくばるしかなく、そこで憎悪を募らせていく話だ。Jong-suの目に映るのは、富も自由も全てを得た完璧な紳士Ben。彼は貧しいJong-suをも快く迎え入れるが、Jong-suは孤独を募らせていく。そして、自らの童貞を解放してくれた女Hae-miがBenに奪われていくことに嫉妬を抱いていく。そして、最悪なことに彼女はBenの目の前からも消えてしまう。Benに彼女の所在を訊いても、「分からない」と言われてしまう。Benは早々に新しい彼女を作りイチャつく。Jong-suにとって、街中で出会って、そのまま恋人になり、SEXまでさせてくれた夢の女。もう二度と得ることのできない女。それを奪い、そしてゴミ箱にポイっと放り投げるような勢いで振る舞うBenが許せなくなってくるのだ。

イ・チャンドンは、毎作ユニークな切り口で現代社会の中にある闇を抉り出す。今回は、『納屋を焼く』を媒体に、貧しい田舎者から見たシティーボーイに対する嫉妬が繊細に紡がれていたのだ。Jong-suはニック・キャラウェイ以下の存在。自らを作家と名乗り、対して成功もしていない。頻繁に都会にやってきて、シティ・ボーイライフを味わおうとするのだが、そこには虚しさが広がる。窒息しそうな息苦しさを抱えながら、眼前の宝を追い求める姿に人間が持つ強欲さ。特に、苦い境遇を持つ者の強欲さがにじみ出ているのだ。

猫と車、建物に注目

さて、この嫉妬の物語をイ・チャンドン監督は原作にないシンボルを散りばめることで強固な物語へと昇華させている。大きく分けて3つに注目していただきたい。

1.猫

Hae-miの家にJong-suがお邪魔する。すると彼女が、「私、猫飼っているの」と言う。しかし、Jong-suには見えない。そう、彼女のアパートでは猫が飼えないのだ。だからイマジナリー・ペットとして、可愛がるのだ。そして、Jong-suも空想上の猫に溺れるようになる。しかし、物語終盤でBenが猫を飼い始める。Jong-suにとって屈辱だ。しかも、彼に懐くではありませんか。Jong-suを奪い、さらには猫までも奪ってしまうBenにやるせなさを覚えていく。Jong-suの嫉妬増幅剤として非常に効果的な作用をもたらしています。

2.車

本作の終盤でひっきりなしにJong-suの車とBenの車の対比が描かれる。前半、Jong-suがHae-miに車を魅せないように振舞っていたのだが、彼女が消えてからはその車でBenを追い回す。実は、彼の乗っている車はオンボロトラックだったのだ。それに対し、Benは何億円もしそうな高級車だ。Jong-suは、ラストにBenと一緒にこの高級車も焼く。「ブルジョワめ!ぶっ殺してやる!」と怨念をぶつけるように。そのクライマックスを盛り上げるために、車の対比を執拗に挿入していたことがよくわかります。

3.建物

本作には3種類の建物が出てきて、そこで主に物語は進展する。

1にJong-suのぼろ家
2にHae-miの狭いアパート
3にBenの高級住宅

家の大きさや物の多さでいえば、明らかにJong-suの家が上だ。しかし、彼は、Hae-miの家に憧れ、またJong-suの家に憧れる。そして、行く度に物色する。貧しき者程、物欲に溺れると言われるが、まさしく本作の家の関係性がそれを象徴している。

さらに、互いの家が、心の内面を投影している。Hae-miが消えると、家も空っぽになり、イマジナリー・ペット用の餌すらなくなってしまう。また、Jong-suにとって、自分の正体を知られるのは嫌なのに、Hae-miはBenを引き連れて、田舎の家にまでやってきて、更にBenからは《温室を焼く》という話まで聞かされる。心の部屋に土足に入り込まれ引っ掻き回されたような嫌悪感がその後の狂気へと繋がってゆく。

そして、いくら調べようとも何も出てこないBenの霧のような実態のなさは、彼の家から何も証拠が出てこないところに現れている。

最後に…

本作は、村上春樹『納屋を焼く』のその後を描いておきながら、結局実態が掴めず、観客は「何を観たのだろう」と無数の疑問が頭に浮かぶ作品であった。まさしく、ロマン・ポランスキー『チャイナタウン』に近い作品だと言えよう。恐らく、日本で公開したら賛否が分かれるであろう。そして様々な解釈が生まれるであろう。これはいろんな人の意見を聞きたい。とりあえず、ブンブンは『納屋を焼く』に『華麗なるギャツビー』を近づけた歪な傑作だと評価した。

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