【東京フィルメックス】『ニッポン国VS泉南石綿村』はシン・ゴジラならずシン・カズオだ!

ニッポン国VS泉南石綿村(2017)

監督:原一男
出演:泉南石綿村の方々

評価:95点

『さようならCP』『ゆきゆきて、神軍』『極私的エロス・恋歌1974』『全身小説家』、作るドキュメンタリー皆伝説レベルの鬼才・原一男。彼は初の劇映画『またの日の知華』で映画芸術ワーストテンに選ばれてしまう黒歴史を作ってから暫く音沙汰なかった。しかし、密かに彼はドキュメンタリー映画を作っていたのだ。今回のテーマは大阪・泉南アスベストの元労働者と国との訴訟バトル。製作期間8年半に及ぶ壮絶な日々の末、遂にシネフィルの前に再び姿を現した。一般公開は2018年3月ユーロスペース他にてですが、今回ブンブンは東京フィルメックスで一足早く原一男渾身の215分を刮目してきました。果たして…

『ニッポン国VS泉南石綿村』概要

2005年、大手機械メーカー・クボタでアスベストによる健康被害が報道された。大阪・泉南地域の元アスベスト工場で働いていた人々は、国相手に国家賠償請求訴訟を起こした!原一男監督は、大阪・泉南地域の人々と国との闘いを8年間追い続ける…

原一男節全開!

東京フィルメックスで観客賞を受賞したのも納得の大傑作だった。まず、個人的に本作は自分の人生とリンクしていた。丁度、ブンブンが小学6年生の時、中学受験対策でクボタショックを習った。そして、原一男監督が本格的に本作を撮り始めた頃、ブンブンはアップリンクで『ゆきゆきて、神軍』を観て衝撃を受けた。なので、本作で描かれる時の流れと自分の人生をどうしても重ねて観てしまった。これだけで個人的に熱くなる。

さて、内容の話をしよう。本作は前半2時間はインタビュー形式で、訴訟の背景や泉南の歴史が紐解かれていく。そして後半90分は泉南の人々と国との訴訟バトルに重きが置かれている。上映時間が3時間半もあるので、ゆっくり進むのかなと思っていると、これが『この世界の片隅に

』レベルでスピーディーに話が展開していく。ポンポンポンポン時代は進み、あっという間に2012,2013,2014年と進んでいく。それにより、次々と泉南の人々が病により逝去していく様子が効果的に見える。これぞ原一男の超絶演出力。国は賠償金の支払いを少しでも遅らせようと悪あがきをし、泉南のアスベスト被害者が亡くなるのを待っていることが観客に伝わってくるのだ!

Q&Aでも彼はお茶目に語っていたが、彼は正義とかそういうの云々の前に「面白い映画を作りたい!」という意志がある。だから、容赦せずに泉南の人々にカメラを向け、煽りに煽る。だからこそ、シリアスでキツイ内容にも関わらず爆笑のシーンも無数にあり、3時間半があったいう間に感じるのだ。そう、これは知られざる社会問題も学べる極上のエンターテイメント作品なのだ!

シン・ゴジラならずシン・カズオだ!

そして、なんと言っても本作が面白いのは後半の泉南と国家の訴訟バトルシーン。これは、ゴジラ目線から描いた『シン・ゴジラ

』に見えます。怒りと憎悪の塊で迫ってくる泉南の人々。各省庁のドンは、下っ端の下っ端に彼らのお守りを任せ、なんとかして賠償金を最小限に抑えようとする。お守りを任された人は下っ端なもんだから、規則規則で身動きが取れず、泉南の人々にフルボッコにされる。この様子が非常に笑え、白熱するのだが、これぞ日本の役所!という強烈な風刺も観客に突きつけてくる。

泉南の人々にフルボッコにされ今にも自殺しそうな目をしている省庁の下っ端からは電通で自殺した人の面影も浮かび上がってくる。まさに、自分の持ち場でしか動けない日本のお役所の辛さが強烈に皮肉られていたと言える。

やはり、本作を観ると、『シン・ゴジラ』は単なるファンタジーではなく、現実を描いていたことがよくわかる。そして、原一男はシン・カズオとして生まれ変わり、ドキュメンタリー監督としてのSIN、国が抱えるSIN、泉南の人々のSINと徹底的に向き合い、この大傑作を産み落とした。

そんな『ニッポン国VS泉南石綿村』は来年上半期注目の作品。『ゆきゆきて、神軍』に惹かれた方は、是非、このシン・カズオに挑戦してみて下さい。

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