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【解説】『BPM ビート・パー・ミニット』日本のアクティヴィストに観て欲しい!

【解説】『BPM ビート・パー・ミニット』日本のアクティヴィストに観て欲しい!

BPM ビート・パー・ミニット(2017)
120 battements par minute(2017)


監督:ロバン・カンピヨ
出演:ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート,
アーノード・バロワ,
アデル・エネルetc

評価:70点

昨年のカンヌ国際映画祭でグランプリ、国際批評家連盟賞、フランソワ・シャレ賞、クィア・パルムの4冠に輝いた作品がある。その名も『BPM ビート・パー・ミニット』。3/24(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、ユーロスペースにて公開される本作を試写会で一足早く観てきた。果たして…

『BPM ビート・パー・ミニット』あらすじ

1980年代、エイズによってアメリカでは4万人もの人々が亡くなった。エイズについて無視する政府、社会に蔓延するエイズに対する差別に立ち向かうべく、1987年、AIDS Coalition to Unleash Power(力を解き放つ為のエイズ連合)通称ACT UPが発足した。やがて、この団体はグローバル規模の組織となった。時は1990年代。フランス・パリにもACT UPが発足し、定期的にミーティングが開かれ、活発な議論がなされていた。そんな中、HIV陰性ながらもこの活動に興味を示したナタンが加入。積極的に発言するようになる。しかし、成果が上らぬ活動、仲間の死、価値観の対立により軋轢が激しくなり…

アクティヴィストの焦燥

本作は予告編のイメージとはかなり違った作品だ。予告編を観た際、ドープな1990年代フランスのエレクトロミュージックに乗せてまるで若松孝二『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』のような過激な政治的アクションが展開されると思っていた。ましてや、本作はロバン・カンピヨがACT UPで活動していた青春時代に基づいた作品だということで尚更、過激なアクションメインな作品だと思っていた。
しかし、実際には180度違っていた。学校教師と生徒との関係性をドキュメンタリータッチで描いた『パリ20区、僕たちのクラス』の脚本家が監督しているだけに、本作のフォーカスは、過激なデモや殴り込みではなく、《M》と呼ばれるミーティングでの議論にあてられているのだ。ミーティングでは、お互いの意見を尊重すべく、人の話に割り込まないことがルールとして定められている。そして、議論を中断させないように、拍手は禁止されている。メンバーの意見に賛同したい場合は、拍手より音が小さい指パッチンをする。一見すると、しっかりしている団体のように見える。ファシリテーターのカリスマ性も見ただけで分かる。しかし、映画が進めば進むほどに、このミーティングが自分のインテリっぷりをひけらかしている場所になってしまっていることが分かる。お互いに、正義の哲学を持っている。それも凶暴な。気にくわない意見は、《論破》という方法で徹底的に潰す。議論ではなく、一歩も譲らぬ平行線で繰り広げられる言葉のドッヂボールとなっている。資金援助等もあり、大きなイベントは出来るのだが、全く結果に繋がらず、ドンドン仲間をエイズで失い焦燥感が募り、そのもどかしさを暴力的な言動で持って《M》にぶつけ、議論の質が下がっていく。

この作品は単なる政治的活動を追った作品ではなく、アクティヴィストの葛藤の真髄に迫った作品だったのだ。なので、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』というより、議論による感情の掘り下げをメインとした『光の雨』に近い作品と言えよう。これはモロッコからの移民で、1990年代にACT UPで必死に社会と闘っていたロバン・カンピヨだからこそ描ける目線。この視点に惹き込まれた。

日本のアクティヴィストも他人事ではない

今回の試写会では、上映終了後、学生政治団体「未来のための公共」の方によるトークショーが開催された。このトークショーに参加して、より一層『BPM ビート・パー・ミニット』が普遍的な映画であることが分かった。というのも、登壇者の二人は今の社会のモヤモヤに対する怒りをぶつける。理想を語る。しかし、中身がなく、具体的な解決策やアイデアが全く出てこない。映画に対する感想も二度本作を観ているにも関わらず、「色々考えさせられました」という空虚な感想を言ってしまう。意識が高く、前のめりで、組織に所属していることを強調する。SEALDsもそうだが(トークショーを聞いて知ったのだが、ACT UPを真似して作った団体とのこと)、非常に本作の若者と似ているところがある。

本作では、新しいエイズ治療法の治験を巡ってACT UPと企業が意見合わせをする場面がある。企業側は、ACT UPから建設的な意見を伺いたいと思い、会をセットアップしているにも関わらず、ACT UPは感情的に治験方法についてボロクソに批判する。そこには発展性はない。

本作は、是非とも日本のアクティヴィストに観て頂きたい。SILENCE=MORT(沈黙=死)というスローガンを掲げて活動する彼らの焦燥から歯車が狂う組織。お互いに対立しながらもなんとか社会を動かそうとするこの物語に、次なるアクションが成功するヒントが隠されているだろう。

本作を読み解くヒント

本作は情報量が多く、専門用語もあるので初見だとわかりにくい場所がある。そこで、いくつか解説しておきます。

HIVとAIDSの違い

パッとHIVとAIDSの違いは?と訊かれると答えられなかったりする。ブンブンも、正直観終わった後調べました。

HIVとはヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus)の略で、名前の通りウイルスの種類。ウイルスを撃退する指令を出しているCD4リンパ球に感染し、破壊することで免疫が下がり、様々な病気に罹りやすくなるウイルスのこと。

HIVにより免疫が下がり、様々な病気に罹りやすくなることを後天性免疫不全症候群AIDS(Acquired Immuno-Deficiency Syndrome)と呼ぶ。

CD4リンパ球

劇中で、様々な登場人物がCD4リンパ球の数を叫ぶ。これは、免疫力の程度を表す数値で、数が多いほど免疫力が高い。健常者の場合、700~1300くらいなのだが、劇中の登場人物は90~120程しかない。つまり、彼らは通常罹らないような病気を簡単に発症し、しかも重症化しやすい状況なのだ

連絡手段

本作の舞台は1990年代。当時SNSなんてものは存在しない。ノートパソコンなんてものも普及していない。なので、海外の支部でどんな活動がされているのか、ACT UPに対する世間の評判はどうなのかと言ったことは、人間パソコンとも言えよう人物が議論の最中に膨大な文書の中から該当箇所を手作業で調べる。また、宣伝も今ならyoutubeやTwitterで簡単にできるのだが、当時は街中の注目を浴びそうな場所に張り紙をしたり、ネズミ講方式で電話を片っ端からかけたりとしている。たった20年でITが著しく発達していることに驚くことでしょう。

エレクトロミュージック

1990年代、フランスではフレンチ・ハウスと呼ばれるエレクトロミュージックが流行していた。本作の原題でもある120 battements par minuteは、このフレンチ・ハウスの特徴でもある四分の四拍子からきている。あのダフト・パンクもこの時代のアーティストである。この時代の音楽事情を描いた『EDEN/エデン』(Netflixにて配信中)を事前に観ておくことで、『BPM ビート・パー・ミニット』の空気感を一足早く体感することができるでしょう。
ちなみに、本作は全編に渡ってエレクトロな音楽が挿入されるが、そのほとんどが映画のために作曲されたもので、当時のフレンチ・ハウスの楽曲はミスター・フィンガーズの”What about this love”のみとのこと。

最後に…


↑試写会のプレゼントで、プレスとコンドームを頂きました。

本作は2時間20分と長尺ではあるが、なかなか知ることのできない学生アクティヴィストの心の苦悩をまるで当事者の気分で味わうことのできる作品だ。ハリウッド映画とは違い、全編ドキュメンタリータッチの会話中心で進行する為、人によっては観て衝撃を受けるかもしれない。しかし、これはきっとあなたの心に刺さる作品でしょう。特に社会団体やデモに参加しているような方、今の社会・政治にモヤモヤを抱えている方には今年最大のディープインパクトになること間違いなしだ。是非、3/24(土)に劇場でウォッチして観てください。

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