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【ネタバレ/解説】「セールスマン」レイプ映画に「セールスマンの死」が絡む理由について

【ネタバレ/解説】「セールスマン」レイプ映画に「セールスマンの死」が絡む理由について

セールスマン(2016)
SALESMAN(2016)


監督:アスガー・ファルハディ
出演:シャハブ・ホセイニ、
タラネ・アリシュスティetc

評価:85点

カンヌ国際映画祭で男優賞と脚本賞をW受賞し、先日のアカデミー賞でも外国語映画賞を獲ったイラン映画「セールスマン」がいよいよ日本で公開された。本作は、トランプ大統領の大統領令でアカデミー賞に関係者が出席できなくなるという不遇を受けた作品(主演女優のタラネ・アリシュスティはその件でアカデミー賞をボイコットしました。)、そしてタイトルからピンと来る方も多いであろうアーサー・ミラーの「セールスマンの死」とレイプ事件がどのように関係するのか謎のベールに包まれた作品でもあります。

イランは、カメラに対して非常に厳しく、簡単に私服警官に捕まりどんな巨匠でも国外亡命せざる得ない状況にまで追い込まれる厳しい国。それ故に、毎回日本に入ってくる作品は凄い作品が多いのだが今回は果たしてどうなのか実際に観てきました。

本日は、恐らく観て?が沢山出る作品だと思うので、ネタバレ解説します。未見の方はゼッタイに読まないでください。ただし、これから本作を観る人に一つだけアドバイスをしておきます。「セールスマンの死」を予習してください!最近、「エル ELLE」や「空の沈黙」、「この世に私の居場所なんてない」と女性が自宅で強盗に遭ったり、レイプされる映画が世界的に作られていますが、それらの作品と比べ本作は予習しないと分からない部分があります。このアーサー・ミラーの「セールスマンの死」を知っているかどうかで面白さが180度変わってくるので、予習を強くオススメします。それではいってみましょう!

「セールスマン」あらすじ

「セールスマンの死」の公演を間近に控える夫婦エマッドとラナ。ある晩、エマッドが帰宅すると、妻が何者かにレイプされていることに気づく。しかし、妻は全く真相について語ってくれず、エマッドは自力で犯人捜しを始めるが…

「エル ELLE」より上手!

ポール・ヴァーホーベンの「エル ELLE」の方が正直、国際的に評価されているようで、フランスの辛口映画誌カイエ・ドゥ・シネマも2016年のベストテンに入れているぐらいの熱狂がありました。しかし、ブンブンは「セールスマン」の方が惹き込まれました。なんと言っても、脚本が凄いということに尽きます。

イランでは、男尊女卑が激しく女性がレイプされると、社会的に女性が責められてしまうとのこと(とはいっても日本でも、痴漢冤罪論争がTwitterで発生した際、他人事とは言えない男尊女卑が見受けられましたが…)。それを、じっくりと心理の奥まで描き出します。近所の人や職場の人間は、妻がレイプされたことを知っている。しかし、その話はタブーなので皆婉曲的に話す。しかも、警察を呼ぼうものなら、妻は逮捕され演劇の公演ができなくなるので何も出来ない。その辛さがひしひしと伝わってきます。

そんな辛さを象徴するシーンがタクシーの場面にあります。エマッドは何もしていないのに、隣のおばさんから「あんた、ちょっと触らないで!ちょっとタクシーのあんちゃん席替するから停まって」と言われる。後にそのおばさんは、過去にレイプされたらしく、そのトラウマから男を嫌うようになったと分かる。このシーンは、後にエマッドを待ち受ける凄惨な事態を予見させると共に、社会的に心のやり場のない環境が生む精神が壊れた人を象徴させており、非常に鳥肌が立ちました。

「セールスマンの死」との関係

ただ、それだけなら至って普通の映画。正直、クオリティの高いイラン映画群の中でも霞んでしまう作品だったでしょう。決定的に本作を傑作にしたのは、「セールスマンの死」との関係と言えよう。

「セールスマンの死」とは、アーサー・ミラーの戯曲です。演出に「波止場」のエリア・カザンが絡んでいることから、フラッシュバック等の映画的手法が用いられており、実際に2度映画化、そしてこの前のアカデミー賞で話題になった「フェンス」でも引き合いに出されている作品です。内容はといいますと、60を超え、なおセールスマンとして過酷な生活を送っていたローマンが価値観の違う息子や母親と軋轢を生み、そして仕事まで失い、しまいには自殺にまで追い込まれるというもの。

1949年に初演されたものの、今の社会にも通じる問題があり、いわゆる老害や毒親の心情が非常に分かる作品になっています。

さて、これだけ聞くと、何故レイプ映画と「セールスマンの死」が関係あるのかと思うであろう。ブンブンは2つの意味で、密接に関係あるのではと考察しました。

考察1:演劇とリアルとの境目

まず、主人公のエマッドが「セールスマンの死」でローマンを演じているのだが、物語が進むと、現実の方がローマンに近い立ち振る舞いをしているのではと思えてくる点が挙げられる。エマッドは演劇をやりながらも学校で授業を教えている。最初は生徒にも優しいエマッドが、レイプ犯に復讐しようと思うあまりに老害と化していきます。授業中、生徒に映画を観せるもののうっかりエマッドはうたた寝してしまう。それを生徒は写真に撮る。すると、エマッドはぶち切れて、生徒を許さなくなる。「最近の若者は…」と言いたげな顔で。同じく、妻や演劇の同僚に強くあたるようになる。段々ローマンそのものになっていくのです。なるほど、そりゃカンヌ国際映画祭で男優賞獲るわなと思うほど、シャハブ・ホセイニの演技は素晴らしかったです。

考察2:第三者から見るローマン

二つ目に、実は本作タイトルが「セールスマン」となっているのだが、セールスマンは終盤まで出てきません。エマッドは教師であり、演劇人なのだから。ただ、終盤犯人が出てくるシーンで背筋が凍ります。60歳くらいの貧しいセールスマンが出てくるのです。エマッドが怒りに身を任せ、そのセールスマンに報復しようとする。具体的には、セールスマンの家族の前で謝罪させるという方法。「恥」をかかせることで復讐しようとするのです。セールスマンは必死に抵抗します。この虚しさ。そして、文字通り「セールスマンの死」が訪れる時、観客は「うぁぁぁあああああ!!!」と慟哭したくなることでしょう。

今こそ観たい作品!

トランプ大統領が移民を排除しようとしたり、日本では痴漢を訴える女性に対して文句を言ったりとイランだけではなく、世界中で人種や性別による壁を作り差別する時代になってしまいました。「セールスマンの死」もそうだが、最初は皆希望に満ちあふれた良き人だった。それが、苦労を経験することで他人を比較し、目下・格下の者が楽をしているのを見ると嫉妬するようになってしまう。ブンブンも、就活に123社落ちているだけに、一時期就活に失敗している人を見つけてあざ笑ってしまうときがありました。どうやら、人間の本能的なものだろう。

ただ、このままでは世界が憎しみで退化してしまう。それだけに「セールスマン」を観て我が振り直せ!と言いたいそんな傑作でした。

ブロトピ:映画ブログ更新

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