”Ç”伝統芸能に惑わされるな「黒衣の刺客」

黒衣の刺客(聶影娘)

監督:侯孝賢(ホウシャオシェン)
出演:スー・チー、妻夫木聡etc

評価:40点

本年度カンヌ国際映画祭で監督賞
獲った作品「黒衣の刺客」。
妻夫木聡が出演しているにも関わらず、
東京では新宿ピカデリーと渋谷TOEIの2箇所
でしか上映されていない。
確かに、カンヌの「監督賞」作品は
監督のキャリアの中で微妙な作品が
多く、「闇のあとの光」のように
酷評されたのに受賞した作品もある。
さてホウ・シャオシェンの新作は
いかなものか?

キン・フーを美しく

予告でも映画好きはぴんと来るかも
しれないが、キン・フーの「侠女」への
リスペクトが強いアクションになっています。
しかし、流石はホウ・シャオシェン。
ただ、キン・フーの浮遊感溢れるアクションを
真似するのではなく、デジタルの発達で
今でしか撮れない美しい景色を
白黒やカラーを織り交ぜて描く。
そして、台詞を徹底して排斥することで、
「刺客」=「暗殺者」としてのプロ感を
演出することに成功している。

故に難解で疑問が残る「黒衣の刺客」

故に、一度観ただけではよく分からない作品だ。
観終わった後、各映画サイトのあらすじを読むと
「こんな話だっけ?」と思うほどである。
寝はしないほど圧巻の映像なのだが、
語らなすぎてよく分からない。

ざっくりと、あらすじを話すと、
誘拐された女の子が13年もの時を経て
女性の道士に凄腕の暗殺者として
育てられる。んで、今回標的が自分の元
婚約者の暴君だ。
んで殺そうとするのだが、彼女の弱点「情」
によって中々良いところまで行くのだが殺せない。
そうこうしているうちに、
流石の彼女にも危険が迫り、
丁度遭遇した遣唐使集団に助けられる…って内容だ。

そもそも、観ていて疑問だったのは、
「何故、情に弱い女がめっちゃ強い暗殺者になれたのか?」である。
アヴァンタイトルで白黒映像の中、ある別の標的を倒す場面がある。
殺す寸前で、赤ちゃんがいたため、殺害をやめるシーンがある。
回想の場面として白黒を用いているため、
本来だったらカラーの本編で彼女の成長を魅せる必要があるのだが、
全くその場面はなく、また暗殺者とは言え、実際に殺したのは
一人ぐらいしかいない。ほとんどのアクションで、
彼女は峰打ちを格好良くキメている、るろうに剣心もビックリ
プレイを魅せているだけである。
おいおいおい、暗殺者じゃねぇ、ただの機敏な人やんw

それなら、この作品の主題は

「育ててくれた親、つまり女道士への決別」

になるはず。
確かにそういった場面もあるのだが、
殺すのではなくいつも通り後味の悪いアクションで
終わらせてしまう。

別に殺すのが重要ってワケではない。
キン・フーの「侠女」だって、血だらけになる
場面はなかった。その代わりに、メリハリの
アクションでしめるところはしめていた。

しかし、この作品では美しい映像に隠れて
「メリハリ」というのを誤魔化しているトンデモナイ作品だ。
だから、いくら黒衣の刺客が暴れていても、
本陣ではどこかのほほんとしていて緊張感がない。
また、説明描写を省きすぎて、何故遣唐使を
登場させる必要があったのかが非常に曖昧なもの
となってしまった。

伝統芸ってなんでも美しく見えてしまうが、
美しさばかりに注目していると
ストーリーの酷さになかなか気づけないものである。

とはいえ、映像だけは文句なし
観て損はない…故に困った作品なのである…


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