評価

2021映画

【MUBI】『Beginning』燃ゆる終わりの始まりは果てしなく

白い教会にゾロゾロと人が集まる。そして神の教えの授業が始まる。荘厳で穢れなき空間は突如業火に包まれる。過激派が投げつけた火炎瓶によって地獄絵図となるのだ。人々は、袋の鼠となり、必死に窓ガラスを割ろうとするが、中々割れない。次のカットでは、荒ぶる業火とは対極にある草原が映し出される。大樹がそこにあり、側には女性がいる。周りでは子どもが遊んでいる。だが、フレームの外ではボウボウと業火の音が聞こえる。カットが切り替わると、人々が、心の拠り所にしていた教会が大炎上しており立ち尽くしている。その次の場面では夜になっても消えることのない炎が映し出される。と同時に、火災そっちのけで遊ぶ少年と、野次馬のように火災を見に行く少年が映し出される。事態の凄惨さをたった4カットで、紡いで行く演出だけでもこの映画の凄まじさが良くわかる。

2021映画

【マイケル・スノウ特集】『WVLNT』もしもマイケル・スノウが『波長』のファスト映画を撮ったら?

In 1967, Michael Snow presented an artistic short film called “Wavelength”, revolving around a practically static shot of a room where the sound of waves and Beatles come crashing in order to create a full other art image. Snow decided to excise some of its minutes and turn into a more comprehensive view of his art project several years later, which could be considered as a director’s cut. This is “Wavelength For Those Who Don’t Have The Time”.
訳:1967年、マイケル・スノーは「波長」というアーティスティックなショートフィルムを発表した。この作品は、波の音とビートルズの音がぶつかり合う部屋の実質的に静止したショットを中心に、完全な別のアートイメージを作り出すことを目的としている。スノー氏は、数年後にこの作品の一部を切り出し、ディレクターズカットともいえる、自身のアートプロジェクトをより包括的に表現した作品に仕上げることにした。これが「時間のない人のための波長」である。

2021映画

サンクスシアター映画総括

2020年、新型コロナウイルス蔓延により困窮するミニシアターを支援するクラウドファンディングMini-Thaeter AIDが発足した。総額3億3,102万5,487円(コレクター数2万9,926人)集まるクラウドファンディング史上最高レベルの盛り上がりをみせました。映画館に育てられたようなものである私も支援しました。本クラウドファンディングのリターンとして、サンクスシアターと呼ばれるインディーズ日本映画が観られる特設VODの観賞権がある。私は80本の権利があったのでこの1年間、いろんなインディーズ映画と出会いました。結構、サボっていたこともあり、全ての権利を行使することはできませんが星評を作ったので総評と共に公開しようと思います。

2021映画

【 #サンクスシアター 20】『花子』私が勝手に”作品”と呼んでいるだけ

サンクスシアター追い込みでラインナップを見ていたのですが、なんと佐藤真監督作品があることに今更ながら気づいた。佐藤真監督といえば、新潟水俣病を描いた『阿賀に生きる』や牛腸茂雄を追った『SELF AND OTHERS』で知られるが、いまだに自分の中で言語化できていない。両作品とも、他のドキュメンタリー感覚とは一線を画する。凄い監督なのは分かるのだが、何がどう凄いのかが言語化できない。さて、食べ物を並べてアート作品を作る障がい者を撮った『花子』を観たのですが、言語化できそうだったので感想を書いていこうと思います。

2021映画

【 #サンクスシアター 18】『息を殺して』息を殺して生きる者の微かな愉しみ

2010年代の日本インディーズ映画は「会話劇」「閉塞感もの」「黒沢清再解釈系」に集約できると考えている。会話劇系は2010年代、色んな監督が挑戦し、濱口竜介、今泉力哉、瀬田なつき、山戸結希と天才が現れ道を示したからあまり心配していない。 ロメール、ジャームッシュ、サンスを多少真似ても、自分の理論が確立されていれば面白い映画になりやすい土壌はできているんじゃないかなと思う。

2021映画

『危機一髪!西半球最後の日』ウィリアム・キャッスルが『インセプション』のような映画を撮っていた件

今見るとクラシカルな色彩、ヴィジュアルに包まれたスパイ基地から物語は始まる。ハーゲン・アーノルド(クリストファー・ジョージ)は重要な情報を入手して帰ってくるが、東洋の組織の手によって重要情報の記憶はブロックされてしまった。冷凍睡眠で眠られ、職員がしきりに脳内ハッキングしているが「14日後に西洋は破壊される」というメッセージしか引き出せなかった。

そんな中、1960年代にヒントがあることが分かる。そこで、1960年代を仮想環境で再現。そこにハーゲン・アーノルドを配置し、スタッフ一同彼の行動をコントロールし情報を盗み出そうとするのだ。