感想

2021映画

『唐人街探偵 東京MISSION』メガ密のユートピア/分断される世界への処方箋

チン・フォン(リウ・ハオラン)&タン・レン(ワン・バオチャン)が日本へ降り立つ。飛行機内でドカ食いをした為、ゲリラゲリに襲われるタン・レンだったが、息をつく間もなく、妻夫木聡演じる野田昊が出現し、そのまま群れのアクションが展開される。一見、通俗ながらもこのアクション一つから滲み出るジョン・フォードの趣に感銘を受ける。総勢72名ものアジア人が彼らめがけて突進してくると思いきや、彼らそっちのけで大乱闘を繰り広げる。リュックを背負ったヲタクと思われる人はゼエゼエ言いながら階段を駆け上がり、飛び蹴りする男たちの狭間の中で、ゴミ箱を被せられた男は階段から落ちてゆく。赤のキャビンアテンダントと紺のキャビンアテンダントが階段で殴り合いをする中、飄々と闊歩する野田。「ウェルカム・トゥ・トーキョー」と観客もろとも不思議の国ニッポンへ引きづりこまれるのであります。違和感しかないトーキョー描写がメガ密空間で描かれるのだが、まさしく『静かなる男』の均等かつ繊細に押並べられていく個性の連動、群れの躍動感にノックアウトされていき、「日本っていいな」と説得されていってしまう。

2021映画

『暗くなるまでには』アノーチャ・スウィチャーゴーンポン、記憶を継承すること

映画は学生運動の結果、軍に拘束されてしまった状況を再現し、白黒写真へと変換していく。さらにはインタビューの内容を再現したりと、ドラマとして再現したりとありとあらゆるフォーマットを使って自在に行き来する。さらには、魔法のキノコやサイケデリックな映像、デヴィッド・リンチばり(明らかに『ロスト・ハイウェイ』を意識した場面がある)の怪しげな空間に包み込んでいくためプロットを追うのは至難の業だ。

2021映画

【アフリカ映画】『This Is Not a Burial, It’s a Resurrection』レソトのおばあちゃん念を放つ

仄暗いバーのような空間をゆっくりゆっくりと360度パンさせながら、怪しげな男にフォーカスがあたる。彼は、レソトのとある物語を語りはじめる。ダムの建設で失われつつある村。宇宙人のようにも見える黄色い作業着を身に纏った男たちが不気味に画面に映り込む。そして、それを凌駕するようにMantoa(Mary Twala) の大樹のように深みのある彫りと反射が特徴的な悲愴顔が画面を支配する。このおばあちゃんは、村人が故郷を諦め新天地を探そうとすることに抵抗する唯一の婆さんとして登場する。子どもたちは皆死んだ。自分の人生もそんなに長くない。しかし、レソトの記憶毎ダム建設によって死んでしまうのはいかがなものか?彼女は喪服を着て、村人の前に立ち圧をかけ、孤独の戦いに挑む。しかしながら、時は刻々と前へ突き進んでしまう。

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『THE ROAD』俺の頭の中では完璧な映画なんだ!byカザフスタンの映画監督

レフ・トルストイの「アンナ・カレーニナ」を現代カザフスタンに置き換えて映画化した『Chouga』が2010年のカイエ・デュ・シネマ年間ベストにて9位に選出されたことからご存知の方も多いでしょう。しかし、カザフスタン映画だけあってか彼の作品の観賞難易度はSSRである。インターネットで調べるとカザフスタンのタルコフスキーというあだ名がついているらしくめちゃくちゃ面白そうなのでここ数年ずっと探していてついに見つけました。フランス版MUBIで発見しました。しかも東京国際映画祭で上映された『ある学生』 も配信されていました。ただ、字幕はフランス語字幕のみ。こういう時、フランス語やっていて良かったなと思う。さて今回紹介する『THE ROAD』はNHKが製作に関わっているにもかかわらず映画祭で上映されたきり日本公開されなかった幻の作品です。これがとてつもなく傑作でありました。