感想

2021映画

【CPH:DOX】『バッハマン先生の教室』6年B組バッハマン先生

驚いたことに、AC/DCの若干ヨレた服を着てダラんと座りながら授業をし始めるのです。確かに海外の学校はラフな姿で授業をするイメージが多いのですが、それにしてもユルすぎるだろうと思わずにはいられない。そして、生徒との間合いの詰め方も独特でどこか教祖のような怪しさもある。生徒も退屈そうに授業を聞いている。音楽の授業では、生徒たちに楽器を習得させて、いざ発表のタイミングになると、我先にヴォーカルを担当し、渋い歌声を轟かせている。大丈夫だろうか。私とバフマン先生の出会いは良いとはいえなかった。

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『るろうに剣心 最終章 The Final』ゼロ年代時代劇に愛を込めて空中分解

本作のテーマは、「過去の罪は償えるのか?」「恨みはいかにして浄化されるべきか?」である。剣心は善人ではあるが、過去に人斬りで大量殺戮を行なっている。人を殺したという事実は変わらない。降らせた血の雨の跡は拭い去ることができず、過去の亡霊のような存在として縁が現れるのだ。一方、縁は恨みを拭い去ることができない。暴力でしか痛みを拭い去ることができない状態になっている。それが目には目を、歯には歯をの戦争を巻き起こしてしまう。アクション面ばかり注目されがちだが、ドラマ面はコロナやパワハラ問題で憎悪と過去がしがらみとなって人々が傷つけ合っている今に通じるものがあるのです。

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【超長尺映画】『ハイゼ家 百年』百年の「豊饒な」孤独

問題の30分以上に及ぶ強制移送されたオーストリア系ユダヤ人のリストは体感時間ではなく、本当に30分存在したのだ。従来もクロード・ランズマン『ソビブル、1943年10月14日午後4時』のラストで収容所に収監された人のリストを読み上げられる場面があるが、本作は変わった演出となっている。目の前に映画のエンドロールさながらスクロールされるリストに対して、そのリストとは無関係に見える手紙のやりとりが読まれるのだ。リストの日付も全く関係ない。これはどういうことか。じっくりと観ていくと段々と納得してくる。手紙では段々と社会情勢が悪化し、石炭等の物資が手に入らなくなり、移送の為限られた荷物だけもって家から追い出されていく家族のやりとりが語られていく。そうです。我々は未来の視点から結末を「目」で追い、一方でその悲惨な未来に向かって突き進む様子を「耳」で追っているのだ。

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【アカデミー賞】『83歳のやさしいスパイ』倫理の壁を超えてみたww

妻をなくしたばかりのセルヒオは、新聞の求人を見て面接に励む。この事務所ではスパイを募集しているのだ。経歴や機械に対するリテラシーなどのヒアリングが行われ、セルヒオはスパイに就任する。彼の任務は老人ホームに潜入し、依頼主の母親が虐待されていないかどうかを調査することだった。老人ホームに無断で内情調査するのは法律的に問題ないのだろうか?そういう観客の疑問を先回りして、事務所は「合法だ」と言う。かくして老年の新人スパイ・セルヒオのミッションが始まった。

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【CPH:DOX】『GUNDA』ソクーロフに映画のノーベル賞を与えたいと言わせた男による豚観察日記

小屋から大きな豚の顔がひょっこりと見える。豚は熟睡しているようだ。すると、一匹、また一匹と豚の赤ちゃんが出現し、大きな豚の周りで暴れ出す。授乳の時間だろうか。大きな豚はよろよろと起き始める。子豚は乳に貪欲だ。無数の子豚がひしめきあいながら親豚の乳を吸う。相当体力を使うのか、親豚はぐったりと横わる。SNSをひらけば、バズりたい一心で動物の赤ちゃん動画が拡散されている。本作では、研ぎ澄まされた色彩の中で豚の赤ちゃんが映し出されるのだが、終始禍々しいものを感じる。大抵、その嫌な予感というものは当たるものである。