【アカデミー賞】『画家と泥棒/The Painter and the Thief』画家が泥棒の内面を覗く時、泥棒も画家の内面を覗き込むのだ。
画家と泥棒(2020)The Painter and the Thief 監督:ベンジャミン・リー 評価:95点 おはようございます、チェ・ブンブンです。 第93回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ショートリストに選出さ…
画家と泥棒(2020)The Painter and the Thief 監督:ベンジャミン・リー 評価:95点 おはようございます、チェ・ブンブンです。 第93回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ショートリストに選出さ…
「メイヘム」を描いた伝記的本作は、音楽伝記映画にもかかわらずテンションは一定を保っている。てっきり、ミュージシャンのドラマティックな人生が展開されるのかと思いきや、停滞に停滞を重ね、微かなステージに立つ時だけが盛り上がりの絶頂となっている。予告編でも魅せてくれる教会炎上シーンも、静かで地味だったりする。これはどういうことだろうか?先日観たデヴィッド・クローネンバーグの『クラッシュ』に近いものを感じた。内なる暴力性の静かな爆発に癒しを求める者たちが停滞のモヤモヤの中で自己を解放させる場所を追い求めているのではないだろうか?彼らは満足しない。あまり客がこないレコード屋で駄話をし、部屋の一角で練習をする。一般人の平凡な人生と変わりない。その中で些細な変化を求める者たちのもがきが生々しく描かれている。だから、伝説的ミュージシャンの遠い世界の物語ではなく、我々の物語のようにみえるのだ。今、コロナで閉塞に押し込められ、微かな変化を求めてもがき苦しむ者にとってこの作品は救いの処方箋となることでしょう。
ロシアのLGBTQコミュニティのスタッフが電話をしている。チェチェンからのSOSだ。アーニャと名乗る人物は、自分がゲイであることが叔父に発覚し脅されていると語る。アーニャは家を出たいが、どうすればいいのか分からず助けを求めているのだ。
豚を仕留めようとする男。彼はナイフを研ぎ、そろりそろりと豚に近づき殺めようとする。しかし、豚におしっこをかけられてしまう。それを見ていたチンピラがケラケラと笑い、村人の女性からも見下しの目が注がれる。学校でクラスメイトから笑われる羞恥の厭らしさを伝えるのに十分な笑みが画面を木霊する。
怒れる男は森の中で暴れている。自ら儀式を行なっているようだ。しかし、『メートル・フ』で描かれるガーナ・ハウカ運動のように異常な動きを行う主人公に観る者は恐怖を覚えることでしょう。『オーディション』で突然動き始める袋のような気持ち悪さがあります。そうこうしていると、子どもの霊が現れ次のように告げる。
「この世は酷い、貴方が世界を平和に導いてください。」
マーティン・スコセッシがギャングのクロニクルを『アイリッシュマン』でスタイリッシュに描いていた。日本では今『ヤクザと家族』、『すばらしき世界』、『孤狼の血 LEVEL2』と空前のヤクザ映画ブームとなっているが、そこに井筒監督は重厚なクロニクルとして『無頼』を置いた。アイリッシュマンに対して、これがジャパニーズマンであると言いたげに。
さて、ガーナアーリア人補完計画を進めるヒトラーと東條英機の横で、現地の空手稽古場が映し出される。遅刻してきた男が、罰を受けている中「今日の稽古の結果を見て試合出る人を選抜するぞ」とマスターが語り稽古が始まるのだが、そこで映し出されるものが本格的だ。イップマンシリーズで登場する、木の柱を使った練習に、瓦割りといったものをスタイリッシュなカット捌きで描く。当の遅刻してきた男に対する罰もジャッキー・チェン映画やショウ・ブラザーズ映画でよく見かけるものだったりする。後半になると、酔拳を学ぶシーンがあったりと稽古のバリエーションが豊かなのである。想像で描かれるなんちゃって空手映画とは趣きが異なる。この手の映画を十二分に研究した形跡があるのだ。それだけに映画全体から漂う、自主制作のポンコツ感との不協和音が凄い。
モルエラニの霧の中(2019) 監督:坪川拓史出演:大杉漣、大塚寧々、香川京子、小松政夫、坂本長利etc 評価:90点 おはようございます、チェ・ブンブンです。 2021年は超長尺映画が少なくても5本公開されるマニアにと…
西川美和はそんな受刑者出所後の苦悩を時にコミカルに描いて魅せる。役所広司演じる主人公・三上は旭川で十年以上の服役を終える。軍事演習のように勇ましく歩き、過剰に大きな声で挨拶をする彼に禍々しさを覚える。爆弾が爆発しそうなハラハラドキドキが画面を支配する。彼は、久しぶりのシャバに「今度こそはまともに生きよう」とポジティブな表情を浮かべ、新たな人生を歩み始める。自分の母親をテレビディレクターの男・津乃田(仲野太賀)が近づいてきたこともあり、前向きだ。しかし、そんな彼の希望は不協和音によって打ち砕かれる。スーパーに行けば万引き犯に間違えられる、免許の更新に行こうとすれば教習所に通わねばならない。脳に持病がある彼の精神は、不安定でフラストレーションが溜まると暴力的に振る舞ってしまう。彼には人を助けたい心はあれども力が制御できず、不良に絡まれていたおっさんを助けようとしてチンピラをフルボッコにしてしまい、それが原因でテレビの案件がなくなってしまったりするのだ。そんな彼の心理を興味本位、ゲスな心で解剖しようとする2人のテレビ関係者。幼少期に親の愛を受けず施設に入れられたのが原因ではとズカズカ彼の精神領域に土足で踏み入れていくのだ。
学校にやってきた山田は、巨大なガキ大将・岩鬼正美(玄田哲章)に絡まれる。しかし、売られた喧嘩は買わない。土下座をし始める山田に憤怒し、パンチを喰らわせると、ヒョイと交わし、地面に腕がめりこむ。授業が始まると、岩鬼正美は早弁を始める。巨大な弁当箱を開き、高速でご飯を口の中に放りいれ、鯛を骨まで食い尽くすのを早回しで描く。滑稽だ。岩鬼には好きな人がいる。夏川夏子(丸山裕子)に全力を注いでいるのだが、彼女は化粧がケバくお世辞にも美人とは言えない。しかし、彼女にひたすら愛を捧げるところに現在でも耐えうるルッキズムを超えた愛が描かれている。彼女に会う為に音楽室にいく場面に注目していただきたい。彼は、口に加えた木の棒から花を咲かせる程興奮している。チャイコフスキーを流暢に弾き鳴らすのだが、彼は死角で気づかない。チャイコフスキーヲタクの野郎が弾いていることに。長い時間かけて、全然正体に気づかない様子を滑稽に描き、結末として、チャイコフスキー野郎を2km先まで放り投げるオチをつけている。
ミミ(Nita-Josee Hanna)とルーク(Owen Myre)は「クレイジーボール」と呼ばれる謎のドッヂボールで遊び狂う活発兄妹。時間があれば外で荒れ狂い、厨二病まっしぐらな二人は庭先で謎の石を掘り起こす。そのせいで宇宙最凶の怪物を復活させてしまうのだ。かつて、銀河を破壊しようとし地球に封印された彼が復活してしまった為、宇宙連合は混乱し、どうやって始末しようか作戦会議が開かれる。