シークレット・エージェント(2025)
原題:O Agente Secreto
英題:The Secret Agent
監督:クレベール・メンドンサ・フィリオ
出演:ワグネル・モウラ、ウド・キアガブリエル・レオネ、、マリア・フェルナンダ・カーンヂド、エルミーラ・ゲーデスetc
評価:85点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
『バクラウ 地図から消された村』のクレベール・メンドンサ・フィリオ新作を観た。本作は第78回カンヌ国際映画祭で監督賞、主演男優賞を受賞し評判が高い作品。予告編を観た感じ、そこまでピンと来なかったのだが、想像を遥かに超える傑作であった。
『シークレット・エージェント』あらすじ
1977 年、軍事政権下のブラジル。カーニバルの喧騒に紛れ、男は再び街へと舞い戻る。過去を消し身分を隠し、抑圧された僅かな自由にすがる人々と猜疑心渦巻くこの国で、「ある目的」を果たすために……。
※クロックワークスより引用
匿名的足が追いかけて来る
本作は、クレベール・メンドンサ・フィリオが数年前に制作したドキュメンタリー映画『Pictures of Ghosts』と繋がる内容である。こちらは、かつて映画の街であったレシフェの歴史を調査し、ナチスや軍事独裁によって抑圧された人々の集団記憶を記録として残していくような作品であった。
彼は『シークレット・エージェント』公開に合わせて、ニューヨークのリンカーン・センターにて本作に影響を与えた映画9本をキュレーションした。それが以下である。
殺しの分け前/ポイント・ブランク(ジョン・ブアマン)
耳(カレル・カヒーニャ)
殺人捜査(エリオ・ペトリ)
イラセマ:あるアマゾンでの出会い(ジョルジ・ボダンスキー、オルランド・センナ)
傷だらけの生涯(ヘクトール・バベンコ)
未知との遭遇(スティーヴン・スピルバーグ)
オルカ(マイケル・アンダーソン)
死を刻んだ男 ― 20年後(エドゥアルド・コウチーニョ)
ボディ・パーツ(エリック・レッド)
『Pictures of Ghosts』で行った記憶の記録化をフィクションの領域でやろうとする源流に『死を刻んだ男 ― 20年後』がいるのがわかる。そして、カイエ・デュ・シネマのインタビューによれば、ヘクトール・バベンコ『傷だらけの生涯』が最も重要な要素となっているようだ。彼は幼少期からブラジル社会の闇と接していた。ブラジルの新聞で、交通事故に遭った女性が1時間後に跡形もなく消えており、血痕だけが残されていた話を目にした。また、下層階級の死は見過ごされ、独裁政権下では「行方不明」として処理されていた。そのような背景が垣間見れる『傷だらけの生涯』はクレベール・メンドンサ・フィリオの作品に影響を与え、『バクラウ 地図から消された村』でも類似のショットが確認できる。『シークレット・エージェント』では、最初と終盤に『傷だらけの生涯』を意識した演出が施されている。そして、この最初の10分が凄まじい。
ガソリンスタンドにアルマンドがやってくる。何故か、目も前に新聞紙が被せられた死体が放置されている。新聞紙の上には犬のウンコが乗っており、ハエがたかっている。ガソリンスタンドのおじさんは、死体を認識しながらも放置している。だが、犬の群れが集まると追い払う。そこに警察が現れるも、何故か死体よりアルマンドのことを嗅ぎまわる。家族がガソリンスタンドへ入ろうとすると、死体の存在に気づき、悲鳴をあげながら去っていく。異常な状態にもかかわらず、晴天下の中で容認される。これが1970年代軍事独裁政権下のブラジルを象徴する描写として機能する。映画は、この死体の足を軸に2つの足の物語を挿入していく。ひとつはサメの腹から足が失言した話。ふたつは、足がゲイの集団を襲っているという噂だ。これらはニュースで目にする匿名的存在を示唆している。匿名的存在社が不自然に行方不明となる。暴力の被害に遭うも、その犯人は不明となる。
ポリティカルサスペンス、スパイ映画の仮面を被りながらも不健全なブラジル社会を告発し、映画を記憶の場として構成していったクレベール・メンドンサ・フィリオの技量に興奮したのであった。2025年のパルム・ドールは、政治的理由が強すぎてジャファル・パナヒ『シンプル・アクシデント/偶然』が受賞したが、本当は『シークレット・エージェント』こそパルム・ドールに相応しかったのではないだろうか?










