『逃走中 THE MOVIE』市民イベントから《今際の国のアリス》へ

逃走中 THE MOVIE(2024)

監督:西浦正記
出演:川西拓実、中島颯太、木全翔也、金城碧海、瀬口黎弥、佐藤大樹etc

評価:30点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

今やテレビのバラエティ番組をほとんど観なくなった。テレビから離れて大分経つのだが、映画化されて「まだ、続いていたんだ」と驚かされる。

ハンターから逃げ回り賞金を獲得するバラエティ番組「逃走中」がいつのまにか20周年を迎えていた。そして、映画が作られたのである。鬼ごっこの映画化であれば、既に『リアル鬼ごっこ』がシリーズ化されて作られているわけで、どうするのだろう。ふと、概要を眺めていたら監督が西浦正記と知り期待が高まった。彼は『劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』の監督を務めた方だ。一般的に『劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』は映画ファンがスルーしまくっていたにもかかわらず興行収入がやたらと高かった作品として知られる。何故か4DX上映まで行われた珍作であるが、映画を観るとジャン=リュック・ゴダール『ウイークエンド』さながらの洗練された移動のショットを魅せてくれて信頼できる監督だと思った。なら、この茶番に乗ってみよう。朝一で観てきた。

『逃走中 THE MOVIE』あらすじ

2004年からフジテレビ系で放送が開始されたバラエティ番組「逃走中」。ハンターから逃げた時間に応じて賞金獲得、つかまれば賞金ゼロという基本ルールで、さまざまな戦略も問われ、数多くの芸能人たちが挑戦してきた人気番組を、人気グループ「J01」「FANTASTICS」のメンバーたちをキャストに迎えて映画化した。

高校時代、陸上部のメンバーの良きライバルとして競い合っていた大和、瑛次郎、賢、陸、勇吾、譲司。高校卒業後、それぞれの道を歩んでいた6人のもとへ、賞金総額1億円超えをうたった「逃走中」への招待メールが届く。さまざまな思いや野望を抱える彼らはゲームへの参加を決め、6人は久しぶりの再会を果たす。かつてのように6人協力してゲームに臨むかに思えたが、それぞれの事情から、高校時代の絆はすっかり失われていた。

「J01」から川西拓実、木全翔也、金城碧海、「FANTASTICS」から佐藤大掛、中島颯太、瀬口黎弥が出演するほか、芸能人逃走者として津田篤宏、長谷川雅紀、クロちゃんらが本人役で出演。

映画.comより引用

市民イベントから《今際の国のアリス》へ

本作は大きく2部構成となっている。前半は一般人の参加が許された「逃走中」のイベントに、元陸上部のメンバーが集まってくるといったもの。「逃走中」特有のハンターから逃げる、イベントをこなすといった世界観を共有するパートとなっている。舞台は東京、参加者多数ということで膨大なエキストラ、タレント、そしてゆるキャラがごちゃ混ぜとなって参加しており、その風景は市民イベント、東京マラソンに近いものを感じる。

だが、後半では作風ががらりと変わり、『今際の国のアリス』に近いデスゲームものに変わる。ここで注目すべきなのは、大抵デスゲームものには必勝法があり、頭脳戦で攻略していくのだが、本作では必勝法解説パートがゼロとなっているのだ。たとえば、5人グループとなり、順番に数字を連続3番まで読み上げることができる中、21を言った人が脱落するデスゲームが行われる。元陸上部メンバーの中に理系がいるにもかかわらず、このゲームの必勝法を解説することなく、ほとんど無策で終わる場面があるのだ。なるほど、所詮は市民大会の延長として描いているのかとその一貫性に納得しそうになるも、「逃走中」全く関係ないゲームとなっており一貫性のなさに驚かされる。しかも、映画が進めば進むほど追う/追われるの関係が雑となってくるのだ。

とはいえ、監督の抵抗らしきものは第一部限定ながら存在する。冒頭でHIKAKINがハンターに追われる場面があるのだが、この撮影は『その男、凶暴につき』における北野武が坂を登ってくるロングショットで撮られている。また、ハンターに追われる際に、段差を利用して隠れる場面があるのだが、カメラは遠くの群れを補足し続け、ハンターが段差に隠れている逃走者に気づかず、遠くの群れを追っていく様を的確に捉えている。膨大にいる人々をコントロールした群れアクションの面白さがあるのだ。

しかし、これだけで補えるほどの映画ではなかった。タレントは「逃走中」で魅せるバラエティの顔と映画で魅せる顔の葛藤の末、個性すら失ったかのような演技を魅せる。クロちゃんの迫真の演技がまさにそれだ。タレントがあまりに多く、寒い大根芝居の交通事故が前半にて頻発する。ガチャピンの演技がまだマシとかどういうことだろうか。人数が減ってくる後半では、逃げることより留まることを選ぶ登場人物しかおらずフラストレーションが溜まる。仲間によるハンターの足止めも全く意味を成していないのだ。

結局のところ、本作は映画ではなくチープな特番ドラマであり、妙に友情ドラマを入れようとしたが故に冗長さがある。映画を観に来たキッズが途中で離席したことを考えると娯楽作品としても駄作だったのは言うまでもない。少なくとも、「逃走中」要素は最後まで残そうぜ。
※映画.comより画像引用

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