『映画おしりたんてい さらば愛しき相棒(おしり)よ』贋作を真とみなす者へ鉄槌を

映画おしりたんてい さらば愛しき相棒(おしり)よ(2024)

監督:瀬藤健嗣
出演:三瓶由布子、齋藤彩夏、櫻井孝宏、杉村憲司、池田鉄洋(池田テツヒロ)、津田健次郎etc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

巷で「おしりたんてい」の新刊「おしりたんてい あらたなる かいとう」がダークすぎると物議を醸している。「おしりたんてい」自体は未履修なので、映画を観る予習として読んでみた。感想としてはアニメのカービィよりかはダークさは控えめだったので楽しく拝見した。本というメディアを活用したマルチエンディング方式を取っており、ゲーム感覚でダークヒーローとなった「おしりたんてい」の冒険が楽しめた。一方で、じっくりと可愛らしい世界を覗き込むと、ブラック企業の生態系が暴露されており、その魅せ方の巧さに唸った。閑話休題、今回は映画版のレビューをしていく。

『映画おしりたんてい さらば愛しき相棒(おしり)よ』あらすじ

人気児童書シリーズ「おしりたんてい」の長編劇場版アニメ2作目。かつての相棒の登場によって巨大な陰謀に巻き込まれ、おしりたんていが絶体絶命の危機に陥る姿を描く。

おしりたんてい事務所に、かつての相棒スイセンからのメッセージが届く。スイセンが勤めるハッタンタウンのメットー美術館をはじめ、各地の美術館で多数の絵画が贋作にすり替えられる事件が発生しており、スイセンの師であるキンモク先生が、事件を起こしている秘密結社に贋作づくりを強要されているという。スイセンの依頼は、秘密結社の陰謀を暴き、キンモク先生を救いたいというものだった。しかし、スイセンの様子はおしりたんていが知るかつての彼女とはどこか異なるところがあり、敵か味方か判然としない。それでも依頼を受けたおしりたんていは、秘密結社との戦いの中で深手を負ってしまう。

劇場版オリジナルキャラクターとなるスイセンの声を仲里依紗が担当した。短編「映画おしりたんてい なんでもかいけつ倶楽部 対 かいとうU」が同時上映。

映画.comより引用

贋作を真とみなす者へ鉄槌を

なるほど、正常な「おしりたんてい」に触れると新刊「おしりたんてい あらたなる かいとう」にモヤモヤするのも無理はない。おしりたんていは、紳士的に敵をやっつけるのが特徴なのに、そのアイデンティティを剥奪し、陰茎のような形となった「かいとうO」が寡黙にミッションをこなす様子にドン引くだろう。こちらの、おしりたんていは、未熟な助手ブラウンに対して否定することなく、一緒に事件を解決しようとする。狂言回しであるブラウンの短絡的な発想も紳士的に受容していくのである。

映画のテーマは「こども映画」らしく、シンプルながら哲学的であり難しい問題を扱っている。美術館に飾ってあるのが贋作であるにもかかわらず、多くの人は「ホンモノ」だと思い込んでいる。それはすなわち、絵画を鑑賞しているのではなく有名かどうかだけを見ているのだと定義する。一方で、美術館側としては「自分が観ているものが贋作だと知ればホンモノに対する価値も暴落してしまう」と語っており、真実が明らかとなる前にホンモノを回収する必要がある。美術館に親しみがある者にとっては、この美術館の展示に思わず激怒するだろう。いくらなんでも俵屋宗達「風神雷神図屏風」 の横にアンディ・ウォーホル「キャンベルのスープ缶」を置くのは、こども映画として多様な美術作品を提示したくてもナンセンスだと。この違和感を払拭するために、映画は「評価されない芸術家が、贋作を描く。それがホンモノだと思い込まれ激怒する」プロットに還元している。こども映画として多様な美術作品を提示することと、キュレーターとして美術作品を選別することの矛盾を脚本で解決させてみせるところに光るものを感じた。

やはり、こども映画は安定して面白いものがあるので定期的に観るべきだと思ったのであった。

※映画.comより画像引用