【横浜フランス映画祭2024】『バティモン5 望まれざる者』絞り出される移民像としての団地の狭い空間

バティモン5 望まれざる者(2023)
Bâtiment 5

監督:ラジ・リ
出演:アンタ・ディアウ、アレクシス・マネンティ、アリストート・ルインドゥラ、スティーヴ・ティアンチューetc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

フランスの団地映画ことバンリュー映画もとある変化が起きている気がする。『GAGARINE/ガガーリン』と本作を観ると、パリ郊外の団地が老朽化を迎えており解体が行われている。それを軸にフランス社会を捉えようとしている気がする。実際にフランス映画において、パリにいるはずである移民が漂白されており、バンリュー映画に押し込められているイメージが強い。そんな中、フランスに居座る移民を排除しようと行政の手が及んでいるのでは?ラジ・リ監督のQ&Aによれば、バンリューに住む高齢者移民は、来たくて来たわけでない人も少なくなく一定層フランス語を覚えようとしない方がいる。それを若い女性の移民が支えていたりするとのこと。そして、横浜フランス映画祭2024会場に来ていたクレール・ドゥニ監督の補足によれば、移民でもウクライナやシリアの移民には手厚いが、それ以外には冷たいフランス社会像が存在するとのこと。

閑話休題、フランス映画では漂白されてなかなか観ることのできない人種のサラダボウルの実態を描いた『バティモン5 望まれざる者』について語っていく。

『バティモン5 望まれざる者』あらすじ

パリ郊外で移民家族が多く暮らす地区を一掃しようとする行政と住民たちの衝突を緊迫感たっぷりに描き、大都会パリの知られざる暗部を浮き彫りにした社会派ドラマ。

労働者階級の移民の人々が多く暮らすパリ郊外の一画・通称「バティモン5」では、再開発のため、老朽化が進んだ団地の取り壊し計画が進められていた。そんな中、前任者の急逝により臨時市長に就任したピエールは、自身の信念のもと、バティモン5の復興と治安を改善する政策を強行することに。住民たちはその横暴なやり方に猛反発し、ケアスタッフとして移民たちに寄り添ってきたアビーらを中心とする住民側と、市長を中心とする行政側が、ある事件をきっかけについに衝突。やがて激しい抗争へと発展していく。

監督・脚本は、同じくパリ郊外が抱える問題を描いた2019年製作のフランス映画「レ・ミゼラブル」で高く評価されたラジ・リ。

映画.comより画像引用

絞り出される移民像としての団地の狭い空間


レ・ミゼラブル』でフランス団地における狭い階段を『七人の侍』における狭い場所へ誘い込むアクションへ置換したラジ・リ監督。今回は、それをさらに発展させていく。冒頭、立ち退きが言い渡された市民たちが棺桶を持って降りる。落とすか落とさないかの緊迫感の中、絞り出されるように外へと追い出され、団地が爆破される。だが、爆破は失敗に終わり、市長が死亡する。臨時市長の尻拭いをさせられる黒人の副市長、そして団地の移民をケアするアビーの目線から、政略で混沌とするフランス社会が見えてくる。

映画は執拗に、エレベーターすらない狭い階段での登り降りを強調する。移民は来たくてフランスに来たわけでなかったりする。そんな彼ら/彼女らの居ざる得ない居場所として団地が存在するのだが、なんとかして立ち退かせたい臨時市長のピエールの策略によって、追い出される。まるでチューブから絞り出すように狭い階段をつたって降りていく様子。バンリュー映画は少なくないが、この狭さに着目して、閉塞感を捉えていくラジ・リ監督の探究心に惹き込まれたのであった。

P.S.ところで、今年の横浜フランス映画祭はかなり酷い。突然、スクリーンが変更となり、勝手に座席が変えられるのはもちろん、前日に送られてきたメールが座席変更前のものという事態。しかも、チケット確認はQRコードつきチケットにもかかわらず目視なので、会場では変更前のチケット番号とバッティングしたり、ダブルブッキングが発生する異常事態が発生していた。そのくせ、映画が終わると爆速で「いかがでしたか?」メールが送られてくるのだが、なぜかスーパーチャットができる失笑不可避システムで草生えまくりだったのだ。ゲストがドタキャンするケースが多いのは、こうした杜撰さゆえに来賓にナメられているからなのではと思ってしまった。

※映画.comより画像引用