【ニコラ・フィリベール特集】『すべての些細な事柄』アダマン号のルーツ

すべての些細な事柄(1996)
LA MOINDRE DES CHOSES

監督:ニコラ・フィリベール

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

早稲田松竹のニコラ・フィリベール特集で『すべての些細な事柄』を観た。『アダマン号に乗って』のルーツのような作品であった。

『すべての些細な事柄』概要

高名な哲学者故フェリックス・ガタリと精神科医ジャン・ウーリーが53年に設立した、フランスにある独特の治療法で知られる精神科クリニック、ラ・ボルドの住人たちにカメラを向けた、感動的なドキュメンタリー。監督・編集は「音のない世界で」のニコラ・フィリベール。製作はセルジュ・ラルー。撮影はカテル・ジアンとフィリベール。音楽はアンドレ・ジルー。録音はジュリアン・クロケ。心を病んだ人たちが静かに暮らしているラ・ボルド。観客を募って催される毎年恒例の上演会で、今年はゴンブローヴィチの『オペレッタ』の上演が決まり、準備が始まる。演出を担当するのは看護人をしている女優のマリー・レディエで、まだ出来上がっていない屋外の会場で、台本を見ながらの練習が行われる。上演当日。晴れわたった空の下、たくさんの観客が集まり、舞台は無事大成功。翌日からはラ・ボルドにまた静けさが戻り、平穏な日々が過ぎていく。

映画.comより引用

アダマン号のルーツ

金熊賞を受賞した『アダマン号に乗って』は、合理化/効率化の流れの中で無機質でまるで刑務所のようになっていく老人ホーム像に対して、最後の砦のように君臨するアダマン号での日常を捉えていた。まるで『窓ぎわのトットちゃん』のように自由が許された空間で生き生きと暮らす老人たち。我々が無意識に理想的であり現実的ではないと思ってしまっているものへのアンチテーゼとしてよく描けていた。その原点となるのがこの『すべての些細な事柄』であろう。精神病を患った人たちが城に集まってくる。そこでは演劇を用いた治療が行われている。つまり、自分以外の何者かになることによってコミュニケーション能力が養われ、自分の内面とも向き合うことができるのである。患者たちは、一見するとバラバラに見えるのだが、演目といったフレームの中で自由に羽ばたく。不自由の中の自由さが生きがいを与えるのである。これを踏まえると、生きづらさを感じている者に対して、特定の光のフレームを与えることにより人生に活路を見出すことができると考えられる。一般的にはそのフレームは宗教が担うのだが(日本だとそういうのが希薄なので「推し」が代わりとなる)、このクリニックでは演劇が対応している。その関係性に興味惹かれるものがあった。