【チネマ・リトロバート映画祭】『時は止まりぬ』エルマンノ・オルミ長編デビュー作

時は止まりぬ(1959)
Il tempo si è fermato

監督:エルマンノ・オルミ
出演:ナターレ・ロッシ、ロベルト・セヴェソ、パオロ・クアドラビ

評価:90点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

シネフィルの間で話題となっている国立映画アーカイブの「蘇ったフィルムたちチネマ・リトロバート映画祭」に行ってきた。今回は『木靴の樹』エルマンノ・オルミ監督長編デビュー作『時は止まりぬ』を観た。

『時は止まりぬ』あらすじ

雪深い山の上の閉ざされた小屋で、冬の間ダム建設現場の監視員として暮らす世代の異なる二人の男の心の触れ合いを描く。エディソン・ヴォルタ社時代に手がけた水力発電ダム建設の記録映画をオルミ自ら発展させた、初の長篇劇映画。登場人物を情感とともに丁寧に観察する眼差しはその後の監督作品にも通じる。FCBとティタヌスが2021年に行ったデジタル修復により、息をのむような美しい白銀世界が蘇った。

※国立映画アーカイブより引用

エルマンノ・オルミ長編デビュー作

雪山でダムの監視員としてクラスおっさんのもとに若造がやってくる。ふたりのぎこちない生活を牧歌的に描いたシンプルな作品。しかし、異様な緊張感が空間を支配する。おっさんは淡々とルーティンワークをこなす。小屋を点検する。うさぎが食料を盗んでいると分かれば罠を仕掛ける。時折、ラジオを聴いてリラックスする。そんな彼の生活が若造の登場で崩れる。とはいっても家侵入もののように殺人が起きるわけではなく、単純にどうやってコミュニケーションを取れば良いのか模索する普遍的な対話が行われる。若造は2段ベットの上からおっさんを観察する。そして大胆に本棚を作ろうとトンカチで壁を叩く。反対側の部屋の棚にあるものが落ちそうになるのだが、おっさんは怒ることはせず、落ちる前に広い上げるのだ。互いに気になっている。でもそのことを口には出さない。トイレに立ち去った刹那の時間に相手が何を読んでいるのかを物色したりして徐々に間合いを詰めていく。これが全ての音を吸収し静けさだけを残す雪山によって生み出された張り詰めた空気感の中で行われる。アキ・カウリスマキやジム・ジャームッシュ系のオフビートな笑いにスパイスが加わったような面白さがそこにあるのだ。

中盤以降は、猛吹雪により二人は親密な関係になるのだが、脱出時に若造が慌ててダサいロゴセーターを裏表反対にして着てしまうところに芸の細かさを感じる。そして最後までそのことを指摘しないところにおっさんの性格の一貫性が保たれており、素晴らしい作品であった。