犯罪者たち(2023)
原題:Los delincuentes
英題:The Delinquents
監督:ロドリゴ・モレノ
出演:マルガリータ・モルフィノ、ヘルマン・デ・シルバ、ローラ・パレーズ、Cecilia Rainero etc
評価:100点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第36回東京国際映画祭で観逃していた『犯罪者たち』がMUBIに来ていたので観た。近年、アルゼンチン映画が注目されており、カイエ・デュ・シネマでは『Trenque Lauquen』が2023年のベスト映画に選出された。また、14時間におよぶキメラのような作品『ラ・フロール 花』のマリアノ・ジナス監督は『アルゼンチン1985 ~歴史を変えた裁判~』の脚本を務め、ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞した。『犯罪者たち』の監督、ロドリゴ・モレノもこのムーブメントに肩を並べられるほどにユニークな作品を放ったのであった。
『犯罪者たち』あらすじ
自らが務める銀行の金を奪った男が、完全犯罪を実現するためにとる驚くべき行動を描く作品。予測のつかないストーリーテリングのうまさが光る。カンヌ映画祭「ある視点」部門で上映。
お金に縛られる者、自由を手にする者
ジャン=ピエール・メルヴィルさながら、銀行の金を着服する男の手つきが映し出される。朝起きて、カフェで一杯やり、出社する。監視カメラを前にふたり体制で金を数え、職員に配布。勤務開始だ。銀行の仕事は厄介ごとが多い。ある女は小切手を換金しに来たようだが、サインが微妙に違う。鑑定をすることとなる。そんな職場で男は大胆に金を盗む。保管庫に袋を入れ、ひとりで作業をするタイミングを見計らい、金を奪う。監視カメラには堂々と自分の姿が映っている。大丈夫なのだろうか?
彼には作戦があった。何十年も退屈な仕事をするより、3年服役し、奪った金を取り戻した方が自由な暮らしができる。金の一部を友人に託し、一通りやるべきことを終え、彼は刑務所に入るのである。映画はなぜか、犯罪ものからフランスバカンス映画のようなタッチになる。しかも、友人と出所した男のパートに分けてそれぞれのバカンスを捉えていくのである。実は本作において金はマクガフィン的役割を握っている。大金を預かることとなった友人は、定期的に隠した大金を観る。すぐそこに富はあるのだが、使うことができず、妻にも言うことができない。内面に金のことを秘めながら数年過ごすこととなる。ゆえに、彼のバカンスシーンには翳りがある。陽光差し込み広大な地に身を置きながらも自由になれないのだ。
一方で、出所した男はもはや金のことなんかどうでもいいかのようにバカンスを満喫する。馬に乗り、自由を掴んだかのように放浪するのである。明確に3年耐える目標を捉え、それを達成したことにより、労働からも金からも解放され、真の意味でのバカンスを謳歌していくのである。映画はスプリットスクリーンで二人の喫煙を捉える。獄中で一服している男よりも、妻がいて光ある空間に身を置く友人の方が辛そうに見える。ここに皮肉が垣間見える。
アルゼンチン映画のジャンル横断的で脱線しながらも映画としての芯や理論を突き詰めていく今の傾向は要注目であろう。素晴らしかった。