【東京国際映画祭】『市子』プロポーズをした翌日、市子は消えた

市子(2023)

監督:戸田彬弘
出演:杉咲花、若葉竜也、森永悠希、渡辺大知、宇野祥平etc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第36回東京国際映画祭で『市子』を観た。失踪した者の正体が別人だったという話は昨年の『ある男』彷彿とさせたり、定期的に見かける題材である。それ故の難しさはあれども、中々の力作であった。

『市子』あらすじ

観客から熱い支持を受け再演もされた戸田彬弘作・演出の舞台「川辺市子のために」を杉咲花主演で映画化。抗えない境遇に翻弄されたひとりの女性の壮絶な半生を描く。

※第36回東京国際映画祭より引用

プロポーズをした翌日、市子は消えた

プロポーズした翌日、市子は消えた。警察との対話で3年も付き合っていたのに青年は何も知らなかったことに気づく。そして彼から衝撃的なことを言われる。

「彼女は何者なんでしょうかね?」

実は彼女は「市子」ではないようなのだ。映画は時系列を解体し、彼女と関係を持った人々の物語を紡いでいく中で真相を明らかにしていく。まるでミステリー小説を読んでいるかのような重厚な語り。ヒントとミスリードを交互に与えていくことによる惹き込まれる語りに脚本の上手さを感じる。ただ、一方で真相が大分明らかになってくる後半以降は竜頭蛇尾となってしまい、答え合わせのための説明描写が連続してしまい退屈に感じてしまった。

ただ、これは題材の難しさともいえる。つまり失踪した人が別人だったというテーマの着地点は出尽くしてしまっているように思える。スマホ時代においてこのテーマはやりにくいので、少し時代を前にして描く工夫はされていたが、それでも真相が分かってからの引き伸ばしには難があったと思う。

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※第36回東京国際映画祭サイトより画像引用