【東京国際映画祭】『左手に気をつけろ』映画を知ると映画の外側に行けなくなる

左手に気をつけろ(2023)

監督:井口奈己
出演:名古屋愛、北口美愛、松本桂etc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

こどもが映画をつくるとき』で子どもの自由な演出に触発されたのか、大人の本気を見せた井口奈己新作『左手に気をつけろ』。第36回東京国際映画祭で観てきたのだが、面白くもあり残念な作品にも思えた。

『左手に気をつけろ』あらすじ

こども警察が左利きをタイホする、幼稚な倒錯と暴力がはびこる時代。それでも大学では昔ながらの映画ゼミがのんびり行われているし、カフェでは恋人たちがデートをし、あやしい女占師は未来の運命を告げ、映画館はいつでも客がまばら…そんななか、神戸りんは行方不明の姉を探す冒険に乗り出すが、たどりついた場所では、マダムロスの狂気の叫びが響きわたる。はたしてりんの運命は?

Filmarksより引用

映画を知ると映画の外側に行けなくなる

本作は謎のウイルスの蔓延で子どもたちが左利きを取り締まる社会を描いたSF映画である。子どもたちが「御用だ御用だ」といいながら、恐らく映画の意図をわかっていないであろう、思い思いの自由さの中、統率されたレールに従って走っていく。ここで、どのようにして左利きであることを証明するのかといった画に対する課題に取り組む。おじさんが右手で自販機に硬貨を入れようとする。しかし、落としてしまう。すると左手で硬貨を拾いそのまま、その手を使ってジュースを購入する。その手つきが手慣れているので、「左利き」と判明し捕まる。不慮のアクシデントにより、隠されていた本物が無意識のうちに顕になる。その決定的瞬間をカメラと第三者が捉える。これにより説明セリフなしでの証明に成功する。

この理論的場面には面白さと勉強になるものがあった。しかし、面白いのはそこまでで、その後はゴダールの二番煎じに留まってしまった。致命的なのは『ウイークエンド』におけるドラム演奏シーンを剥き出しのまま引用したところにある。『こどもが映画をつくるとき』において、池に石を投げる落下の運動を、アクションの出発点を見せず、上昇の動きで捉える、映画論から離れたところにある自由な運動が提示された。しかし、本作はその自由さに挑み、一見自由な演出に見えるが、実はゴダールをなぞっただけの不自由な演出になってしまっているのである。確かに私も、ずんだもん解説で好き勝手に映画論を繋ぎ合わせているが、その自由さは結局既存の映画に縛られた不自由なものとなっており、その外側を平気でやってのける無知なる存在に羨望嫉妬したりするので、この映画における葛藤はよくわかるし、それを克服し唯一無二な作品を作ったゴダールは凄いと思う。だが、自由な作風であることをアピールしながらゴダールの二番煎じに留まってしまったことは残念に感じた。

※映画.comより画像引用