こどもが映画をつくるとき(2021)
監督:井口奈己
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
『ニシノユキヒコの恋と冒険』の井口奈己監督がコロナ禍で制作したドキュメンタリー『こどもが映画をつくるとき』がAmazon Prime Videoに来ているとタレコミを受けて確認したら本当にあった。実は本作は期間限定でYouTubeかどこかにあがっていたのだが、観そびれてしまっただけに嬉しい。こどもが映画を作るドキュメンタリーといえば『100人の子供たちが列車を待っている』が有名だが、それに匹敵する面白い映画の世界が広がっていた。
『こどもが映画をつくるとき』あらすじ
コロナ禍の2020年12月、こどもたちが映画をつくるワークショップ「こども映画教室」が九州・宮崎市で開催されました。 12人の子どもたちが2チームに別れ、3日間かけて映画を作り、上映する様子を追いかけます。 このワークショップでは、映画をつくる主役はあくまでこどもたち。
企画から撮影、編集に上映まで一気通貫
映画をゼロから勉強した人、ないし映像論を学んでいないであろう人が作る作品は驚きを与えてくれる。自分が映画と同じくらいYouTube動画を観て分析するのも、メディア論、映画論の研究者、実験映画作家が難しく理論化している内容を突然実践したりする面白さに惹かれているからだ。自分も実際にカメラを持ったり、映像編集をするとその場で生まれるアイデアが面白い効果を生み出すことがある。そんな映像の魅力を井口奈己は捉えて魅せた。
実際に子どもたちにカメラを持たせ、自由に撮らせてみる。すると、ただ人を撮るにしても謎のローアングルが生まれたりする。さらには傘と靴でストップモーションアニメーションを生み出したりする。さらにフランスの実験映画が撮りそうな自然を活かした驚くべき長回しが飛び出してくる。子どもたちが池に石を投げ入れる。投げている者は映さない。水にぽちゃんと落ちる結果だけが映し出される。落下の運動に対しカメラは、それを追うの訳でもなく、明確に捉えるわけでもなく、何故か木に着目し、上昇の運動としてカメラを上げていく。かと思いきや右へとパンをしていく。水の波紋、ASMRのような心地よい音が木霊する。映画の神が降りたかのようにバキバキに決まったショットがその場で生み出されていく。この快感に感動する。
本作はそんな子どもたちに負けんじと大人もショットを決めて来る。バスを撮影しようとする子を横移動で捉える。情報から遊び場を縦横無尽に駆け回る子どもたちを捉える。大人の意地が感じられる。これはカメラという武器を持った者たちの銃撃戦だと言わんばかりに、画を捉えて捉えて捉えまくっているのである。
そして、映画撮影は交渉や認識合わせといったコミュニケーションが求められる。一人ではできないし、もしインタビュー動画が上手く撮れなかったら再撮影の交渉が必要となる。編集もチームワークである。社会人になると常に求められる繊細なコミュニケーションの過程、そこで生じる葛藤やフラストレーションを余すことなく捉える。まさに映画撮影の一気通貫を余すことなく捉えた傑作であった。
映画学校だけでなく、普通に高校の授業で魅せても良い作品だと思う。
※Amazon Prime Videoより画像引用