【ネタバレ考察】『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE』運動の魅せ方は最高だがラストがグロすぎた件

しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司(2023)

監督:大根仁
出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみ、真柴摩利、松坂桃李etc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

夏休みシーズンですね。映画館は子ども向け映画が多数上映されている。こういう時こそ映画館で一緒に盛り上がりたいところ。今年の夏は観客が映画館に戻ってきた感触を抱く。多数のキッズが押し寄せていた。3DCG版クレしんこと『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司』を観たのだが、劇場では爆笑が包み上映後には拍手が起こっていた。私も監督が『モテキ』や『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』の大根仁だったこともあり観たのだが、めちゃくちゃ面白かった。しかし、これには条件があり「ラストを除いては」であった。Twitterでもチラホラ指摘されているが、終盤の展開があまりにもグロテスクなのだ。ということでネタバレありで語っていく。

『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司』あらすじ

幅広い世代に愛される人気アニメ「クレヨンしんちゃん」のシリーズ初となる3DCGアニメーション作品。「STAND BY MEドラえもん」などのCGアニメーションで知られる映像制作プロダクションの白組が3DCGを手がけ、映画「バクマン。」やドラマ「エルピス 希望、あるいは災い」の大根仁監督が、アニメーション作品の監督に初挑戦した。

かつて、ノストラダムスの隣町に住んでいたヌスットラダマスが「20と23が並ぶ年に天から2つの光が降り、世界に混乱がもたらされる」という予言を残した。そして西暦2023年の夏、宇宙から白と黒の2つの光が地球に降り注ぎ、しんのすけに白い光が命中。不思議なパワーがみなぎるしんのすけは、エスパーとして覚醒する。そして、もう一方の黒い光を浴びた男・非理谷充(ひりや・みつる)もまた、エスパーとなった。バイトは上手くいかず、推しのアイドルは結婚、さらには暴行犯に間違われ警察に追われていた非理谷は、力を手に入れたことで世界への復讐を企む。破滅を望む非理谷と、それを止めようとするしんのすけの、超能力バトルが幕を開ける。

世間に対して鬱屈した感情を抱き、黒い光を受けて暗黒のエスパーとなる非理谷充の声を松坂桃李が担当。そのほか、お笑いコンビ「空気階段」の水田かたまり&鈴木もぐら、「鬼滅の刃」の禰豆子役で知られる人気声優の鬼頭明里がゲスト出演。

映画.comより引用

運動の魅せ方は最高だがラストがグロすぎた件

ブラジャーを装備したしんのすけは逃げる。それをみさえが追いかける。アニメ的伸縮自在性が液体のようにしんのすけの形状を変え、細い隙間へ入っていく。それに負けんじと彼女は追いかける。その道中で、スケートボードのようなものへ足をかけ、困惑しながら爆速で彼を追いかけ、ゴミ袋が中を舞う。なんとか家に帰ると夕方。部屋は片付いていない。スクリューボールコメディーのような破壊を伴う追う/追われるの関係性から、ストレスフルな育児の表象へと畳み掛けていく冒頭に惹き込まれる。そして、その疾走感ある語り口は、悪役青年・非理谷充が闇堕ちするきっかけへと横滑りさせていく。

派遣社員の青年は新橋で路傍の石のように辛酸を舐める。ガチ恋していたアイドルも結婚引退する中、超能力を得る。SNS可視化された幸せな生活に対する憎悪を、念力によって人々のスマホを空中でぶつけ爆発四散させることでストレスを発散させる。無敵の人になった彼は憎悪を抱えながら幼稚園で立て篭もり事件を起こしたりするところを、しんのすけが立ち向かう。

かつてシンエイ動画は3DCGでヒーローものを作ろうとした。それが『劇場版3D あたしンち 情熱のちょ~超能力♪母大暴走!』だ。これは超能力を手にしたタチバナ家の母が承認欲求を拗らせていく様子と超能力の暴走を紐付けていた。しかし3DCGの技術開発に予算を使い過ぎてしまったためか、上映時間が43分しかなく、ストーリーとして描ききれていなかった印象があった。今回はあれから10数年もの時間をかけて培ったノウハウ総動員して、再度「超能力もの」に挑んでいるだけあって気合いの入り方が違う。しんちゃんのデフォルメされた姿に対して、エレベーターの金属部分の反射は実写に近いレベルの精巧さで作られている。クリーチャー描写やオブジェクトの扱いの切れ味が抜群となっている。特に注目すべき箇所は2ヶ所ある。一つ目はロボット・カンタムを念力でしんちゃんが動かす場面。最初は機械的動きしかしないのだが、深田恭子「キミノヒトミニコイシテル」に併せてケツを振ると、カンタムもしんちゃんと同じような人間的動作に変わる。機械的運動から人間的運動に変わることでシンクロ率の向上に繋げる表象に興奮した。二つ目に、カンタムと巨大化した青年が戦う場面において、瓦礫で作った手巻き寿司をミサイルのようにしてぶつけ合う場面がある。この動きはロボットアニメや映画で見かける熱い展開だ。無数にホーミングしてくるミサイルを避けていくカッコよさがあるのだが、それを手巻き寿司というしんちゃんならではの言語に置き換えて行っているあたりに面白さを感じた。徹底した真面目に不真面目をやっている作品といえよう。

それだけに第三幕にあたる展開が雑でグロテスクなものに思えた。非理谷充はヌスットダムスの基地に行く。そこで少子高齢化によりこの国は滅びるといった言葉を浴びせられ、彼の中の憎悪を刺激し、キメラを爆誕させる。しんちゃんとの対決の末、敗れる。非理谷充に対してひろしを筆頭に「頑張れ」と応援し始めるのだが、これがキツい。非理谷充は決して頑張ってなかった、怠けていた訳ではない。少なくとも推しのために日銭を稼ごうと頑張っていた。それを「他人のために生きなさい。頑張りなさい。」と家庭を持ちそこそこ稼いでいる人から言われることって逆に憎悪を増長させてしまうものだと思う。確かにひろしは、彼がプライベートで頑張っていることなど知らない。暴れている姿しか知らない。でも現実でも「気軽に頑張れといってはいけない」と言われつつある状況で、なおかつフィクションはお互いの知ってる/知らないを理解した視点からセリフを書けるのにこの選択をしてしまっている。なおかつ、損壊した車の件で話し合うといったことも語っており、あまりに酷いなと思った。また、少子高齢化問題について言及しているのに対しその解決方法を示さず、非理谷充を倒して終わりとするのも雑に感じた。確かに現実の少子高齢化は解決が困難な問題である。しんちゃんの世界でこれだけ大きく難しい問題を提示したのに、提示するだけで終わってしまっているところがさらに良くないと感じた。だったら『劇場版3D あたしンち 情熱のちょ~超能力♪母大暴走!』のように承認欲求に絞って描いた方が良かったのではないかと感じた。

全体的には面白かったし、私も劇場で笑ったものの、着地点がかなり残念な作品で「惜しい!」となったのであった。

※映画.comより画像引用