アダプション ある母と娘の記録(1975)
英題:Adoption
原題:Örökbefogadás
監督:メーサーロシュ・マールタ
出演:べレク・カティ、ビーグ・ジェンジェベール、Péter Fried etc
評価:70点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
昨今、マニアックな映画のリバイバル上映が盛んに行われている。2023年上半期はオタール・イオセリアーニ特集が話題となったが、もう一つ注目の特集がある。それはメーサーロシュ・マールタ特集である。ベルリン国際映画祭やカンヌ国際映画祭での受賞歴がありながらこれまで日本ではほとんど紹介されていなかった監督メーサーロシュ・マールタ。昨年、MUBIで特集が組まれ界隈で注目されていたが、日本にも上陸することとなった。2023/5/26より新宿シネマカリテ他にて始まるこの特集に先駆けて、今回ライトフィルムさんのご厚意で一足早く彼女の作品を観ました。今回は女性監督として初めてベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した『アダプション ある母と娘の記録』を観たので感想を書いていく。
『アダプション ある母と娘の記録』あらすじ
ハンガリーのメーサーロシュ・マールタ監督が歳の離れた2人の女性の交流を描き、1975年・第25回ベルリン国際映画祭で女性監督として初めて金熊賞を受賞した記念すべき作品。
工場で働いている43歳の女性カタは夫を亡くし、現在は既婚者と不倫関係にある。カタは子どもを設けることを望んでいるが、愛人はそれを拒否する。そんなある日、寄宿学校で暮らすアンナと知り合ったカタは彼女の面倒を見ることになり、歳の離れた2人の間には奇妙な友情が芽生えはじめる。
後に「海の上のピアニスト」などを手がける撮影監督コルタイ・ラヨシュが撮影を担当。日本では「メーサーロシュ・マールタ監督特集上映」(2023年5月26日~、新宿シネマカリテほか全国順次公開)
停滞した時間から差し伸べる手
工場で社会の歯車として働きつつも、子どもを授かりたく思っているカタ(べレク・カティ)は43歳になった。病院で子どもを授かれるか尋ね、微かな希望を抱く。しかし、彼女が付き合っている男とは不倫関係にあり、彼は子どもを必要としていない。理屈をこねくり回し、彼女の希望をへし折っていく。そんな彼女の前に不良女・アンナ(ビーグ・ジェンジェベール)が現れる。彼女は、寄宿学校を転々としており、親からも見放されている。彼女は結婚することで自由を得ようとしているのだ。そんな彼女にカタは想いを寄せていく。年を取り、微かな希望すら叶わなかった者が社会のはぐれものである若い女の自由を叶えようとする姿を静かに描いていく。『ドント・クライ プリティ・ガールズ!』に引き続き、工場が出てくるのだが、こちらは徹底した冷たさを描くために、淡々粛々とした労働が紡がれていく。そして、自分の存在意義を辿るようにアンナ周辺に対して行動を起こしていくのだが、ドラマティックな展開にはせず、停滞した時間の中で前へと進むリアルな情景を紡いでいく。
これは、どこか小津安二郎『東京暮色』を彷彿とさせるものがあった。クズ男は自由にカタの前へ現れては消えを繰り返すが、彼女はそうはいかない。男を追いかけ、アンナを追いかけることで自分の人生の手触りを感じようとする辛さが滲む作品であった。
※映画.comより画像引用